ゴッホ~最期の手紙~

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

(c)Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.

好色家、狂人、天才、怠け者、探求者……。さまざまなレッテルを貼られた印象絵画派の巨匠ファン・ゴッホ。彼の人生は、その残された手紙によって明らかにされているが、その中で「我々は自分たちの絵にしか語らせることはできないのだ」とゴッホは書いている。ゴッホの最期を描いた本作は、彼の絵画をモチーフに、まず実際の俳優が演じる実写映像として撮影された。その後、世界各国から集められた総勢125名の絵描きによって、約65,000枚の油絵へと生まれ変わり、全編が動く油絵によって構成される圧巻の体感型アートサスペンス映画となった。まさにゴッホの言葉通り、彼の絵画によって彼自身に語らせる、世界初の試みとなった。

【クロスレビュー】

鈴木こより/鎮魂の映像に圧倒され、救われる度:★★★★☆

自分の片耳を切り落とし、その後、人生に絶望してピストル自殺したといわれている謎多き画家のゴッホ。だが、その定説には不可解な点も多く、本当に自殺だったのか、という指摘もある。本作は彼が遺した画と手紙によって”ゴッホ最期の日々”を再現し、その真相をゴッホ自身に語ってもらおうという挑戦作である。
この作品から浮かび上がるのは、狂人というイメージからは程遠いゴッホ像であり、自然と人間を愛したひとりの画家の面影である。生前はたった1枚の画しか売れなかったというが、時を経た今、彼を慕う125名のアーティストたちによって、この奇跡のような作品が生まれた。情熱と愛情とリスペクトで満ちあふれた鎮魂の映像に、圧倒され、救われたような気持ちになる。

外山香織/画家へのリスペクトが溢れる度:★★★★★

まるで自らの命を燃やすかのような、炎にも似た粗目の筆致。それが本作では「ゴッホ調」のアニメーションとして表されているのだが、もうこれは「それっぽく」表現されていると言うよりもゴッホの絵そのものだと言っていいだろう。あの絵も!この絵も!スクリーンに人物や背景として登場する。その湧き立つような興奮は、映画という枠を超えた……何と言うか、アトラクション的感覚に近いかもしれない。その技術は125人の画家による手作業によって生み出されたものなのだ。それを可能にしたのは、ゴッホへのリスペクトに他ならない。しかもストーリーはと言うと、ゴッホの晩年、特に死の真相に迫ると言うのだから大胆な挑戦である。最近では、ピストル自殺とする定説に異議が唱えられているそうで、本作はそういった流れも組み込み独自の解釈を押し広げた形になっている。と同時に、これはゴッホの手紙を弟テオに届けることを郵便配達人の父(ジョセフ・ルーラン)から頼まれた青年アルマンの物語でもある。ゴッホをよく知らない人も、アルマンの目で画家を捉え、思いを寄せることができるだろう。全く、とんでもない野心作である。


11月3日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国順次ロードショー!
Copyright (C) Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.

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