【TIFF】シップ・イン・ア・ルーム(コンペティション)
作品紹介
カメラマンの男。偶然知り合った女と、その弟の3人で奇妙な共同生活が始まる。心を病んだ弟は部屋から外に出られず、男はある手段を思いつく…。傷ついた人々に優しい視線を投げかけ、映像が持つ力を改めて教えてくれるヒューマン・ドラマ。(TIFF公式サイトより)クロスレビュー
鈴木こより/タイトルの意味をしみじみ考える度:★★★☆☆
舞台は東欧ブルガリアの、とある町。冒頭、大型スーパーの開店に押し寄せる人々の表情から、資本の波ー新たな時代の到来を思わせる。だが、主人公のカメラマンはその波からはじき出され、店内で倒れて運び出された女性と知り合う。彼らは時代の流れに取り残されたかのように、廃墟のような建物で共同生活をはじめるのだが・・・自分たちでリフォームしたり、柔らかな陽射しが差し込む空間はなかなか快適そう。監督はこのカメラマンに自身の想いを投影させているのか、彼が撮るのは懐かしさを感じさせるようなブルガリアの街の美しさで、木々から漏れる光が印象的。変化に戸惑い、揺れる人々の想いにそっと寄り添うような作品で、タイトルにもあるように”舟”が象徴的な存在になっている。が、テンポがあまりにスローであやうく自分が舟を漕いでしまいそうになった。中国の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の作風を思わせる。
折田侑駿/改めて、映画っていいな度:★★★★★
電話は持っていないが、カメラは持っているーーそれがこの映画の主人公の男である。彼はひょんなことから出会った姉弟と、奇妙な共同生活を始めることになる。“奇妙な”といったが、それはまったくの他人どうしが共同生活を始めることの奇妙さではない。“ともに生活する”事実があるにもかかわらず、生活感が全くないことへの奇妙さだ。つまり、「寝ぼけまなこでの、おはよう」や、「お休み前のワインで乾杯」といった光景は見られないのである。これはこの共同生活の場に依存する人々の物語ではないのだ。男は、心を病み外に出られない弟のため、ある行動にでる。画面には次々と、“外の世界”が写し出されていく。電話は持っていないが、カメラは持っているーー少しずつ拓けていく世界に、やっぱり映画っていいなと。そんな素朴なことを思った。
富田優子/映画祭ならではの挑戦的な作品:★★★☆☆
セリフも最小限で、映像の力で語ることに徹した作品。まさに映画祭ならではの挑戦的なチョイスだ。とは言うものの、引きこもりの男のために外部の世界の動画をとにかく撮り、見せるというコンセプトに、どうコメントしたら良いのか困惑もあった。たが引きこもっていた人間の身からすれば、何気ない日常の風景、他人のざわめきは新鮮でもあり、恐怖でもあろう。そんな繊細な様子や誰かのために何かをする優しさも伝わる。船の模型の例えはいささか安直ではあるが、爽やかさを残した作品だ。
【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net