【TIFF】さようなら、ニック(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

©Heimatfilm

モデルからデザイナーに転身を図ろうとするジェイド。初のファッションショーの準備に余念がない。しかしスポンサーでもある夫ニックが姿を消してしまい、逆にニックの前妻マリアが家にやってきて一緒に暮らす羽目になる。ジェイドとマリアは何かと反目しあうが…。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

折田侑駿/明るく楽しい女同士の闘い:★★★☆☆

さようなら、ニックーー原題は『Forget About Nick』前向きとも、後ろ向きとも取れるタイトルである。ニックという男を中心とした女性たちの波乱万丈な奮闘記(?)であるが、「さようなら」の示すところの、別れの決意も、感傷も見られない。明るくポップなオープニングで開巻されるに相応しい、ニックを巡っての、笑いあり、涙ありの言葉の合戦が繰り広げられる。当のニックはといえば、劇中なかなか姿を見せない。でありながら、やはり本作がニックに関する物語であることをやめないのは、彼女らの口にする「ニック」という言葉の響きの強さにあるのではないだろうか。ニックがニックであることは、たくましき彼女らの存在によって裏づけられているのだ。「さようなら、ニック!」

鈴木こより/ハンナ・アーレントの現代版?!度:★★★★☆

元妻と元々妻のバトルがとにかく笑える。訳あってNYで一緒に住むハメになるのだが、インテリアの趣味も食に対する考え方も、キャリアに対する価値観もまるで違う二人。お互い一歩も譲る気配はないが、同じダメダメ男を好きになった者同士、根っこは他者に寛容なオトナの女性である。それぞれ主義を貫きながらも、相手を無理やり変えようとはせず、ナンダカンダでお互いの立場に理解があるところに、フォン・トロッタ監督が描く女性像に共通点を見い出せる。前作で撮ったハンナ・アーレントもユダヤ人でありながら、アイヒマン裁判の一方的なあり方を厳しく非難したような女性である。彼女らがドイツからNYに移住しているのもアーレントと共通しているが、それも単なる偶然だろうか。もし今の時代にアーレントがひとりの男性(ひとつの場所)をめぐって争うことになったら・・・。ラストシーン、二人は思わぬ形でタッグを組むことになるが、それはとても象徴的な展開であるような気がしている。


【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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