【TIFF】ペット安楽死請負人(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

©It’s Alive Films

表向きは自動車修理工だが、裏では動物の安楽死を請け負う男。無責任な依頼主に苦言を呈しつつ、仕事を冷静にこなす。しかしある犬を生かした時、事態は一変する…。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

ささきまり/それにしてもヴェイヨ50歳の設定がショックすぎた度:★★★☆☆

タイトルからして肝が冷えまくりなのだが、物語の闇は、想像したものとは別の先にあった。主人公ヴェイヨは、奇人として周囲からも浮いている。淡々と「仕事」をこなす姿には殺し屋らしいスタイリッシュさもあり、かと思えば突然の「恋」に狼狽して、犬猿の仲の知人に教えを乞いに行くようなピュアさがユーモラス。しかし、父親の病室で、死期の近い老人の顔にスズランの花束を押し付けるという衝撃的な場面あたりから、幼少期の暗い経験が彼の人生にどんな影響を与えたのかが少しずつ明かされていく。ヴェイヨがたびたび口にする「苦しみのバランス」、つまり他者に苦しみを与えたなら自分も同じだけの苦しみで償え、というポリシーは行き場を失って迷走し、ついには自分で自分を裁くに至る。というか、ずっとそうするつもりで生きてきたんだろうな…。動物たちのために彼が繰り返しかけていたスタンダードジャズ「I Love You For Sentimental Reasons」のフィンランド語バージョン、オラヴィ・ヴィルタのノスタルジックな歌声が、ヴェイヨにとっても安らぎになったなら、と願う。

杉本結/命は大事にしよう!度 : ★★★★★

タイトルだけでもギョッとしてしまうような本作。原題Euthanizerは「安楽死をさせる」という意味。飼っていたペットを飼えなくなった人々が様々な理由を抱えながらペットを安楽死させて欲しいと請負人の元へ連れてくる。そんな無責任な飼い主に説教をする請負人のおじさんは見かけこそ厳ついピアスとその形相から悪人に思えるが悪い人ではなさそうにも見えてくる。ペットを安楽死させる時に流れる音楽はとても独特で、もはやトラウマレベル。話が進むにつれて明らかになる請負人の生命の価値観の基準とその過去。暴力的なシーンもあるけれど、スクリーンに映し出されるのはタイトルから受ける印象と異なり動物に向けられたものではなく人間同士のものであり、暴力の危険性を暗示しているように感じられる作品だった。


【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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