【TIFF】スヴェタ(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

(c)Sun Production (Kazakhstan)

ろうあ者が勤務する工場で働くスヴェタは、突然リストラの対象とされてしまう。家のローンに苦しむ彼女は神をも恐れぬ行動に出る…。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

藤澤貞彦/何が彼女をそうさせたか度:★★★☆☆

予告篇では効果音が全く入っていなかったが、本編は普通に音が入っている。故に観客は完全に第三者的立場に置かれてしまう。しかしそれでいいのだろう。窮地に追いまれた末の行動とはいえ、なぜスヴェタがそこまでするのか、客観的にみられるからだ。まず、彼女の周りの人がすべてろうあ者ということで、彼らと一般社会のコミュニティとの間に隔絶していることが際立っている。また「弱者は自分で自分を守らなくてはならない」とならざるを得ない社会制度に問題があることも見えてくる。だからといって何をやってもいいとなってしまう彼女の価値観は常軌を逸しているのだが、それも彼女が親の愛情を知らずに育ったことから来ており、更には通ったろう学校の環境の劣悪さが、彼女の異様な価値観を形成したことも否めない。弱者が不幸のどん底に落とされるということではなく、逆に悪魔になるという、通常の社会派映画とは正反対の描き方をしている点が、この作品のユニークなところである。

ささきまり/それにしても地元警察がボンクラすぎる度:★★★☆☆

想像を上回るブラック展開に慄然。これはカザフスタン版の『黒い家』なのか。夫と子供たちとウォーターサーバーのある暮らし(あの家、節約の余地ありすぎ)は、施設で厳しい幼少期を過ごしたスヴェタが必死で叶えた「夢」だったのだと思う。それを奪われないために、彼女は激しい手話で相手を罵り、ここから先はやってはいけないという境界線をやすやすと超えてしまう。ぞんざいな料理の作り方や、子供たちへのぎこちない接し方。やってもらった経験のないことは、上手にこなせない。振り切ってるがゆえのユーモアもあって客席は何度も笑いを共有したし、彼女の破天荒な言動は「子供たちを自分の二の舞にさせない(施設に入れない)」ためでもあることを考えれば、ああヘタクソだけど頑張ってるなあ…と、うっかり感情移入してしまいそうになる。それでも、彼女のしたことは決して正当化できない。スヴェタが運命を変えてしまったあの小さな女の子は、いつか真実を知るのだろうか。第二の「スヴェタ」にならないことを祈る。


【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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