【TIFF】スパーリング・パートナー(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

(c)2016 – UNITÉ DE PRODUCTION – EUROPACORP

とうに盛りを過ぎたドサ廻りの2流プロボクサーが、欧州チャンピオンの練習相手に立候補する。愛する家族と、自身の引き際のために…。『アメリ』のマチュー・カソヴィッツが顔面を腫らし、敗者の美学を貫く男を爽やかに演じる感動作。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

ささきまり/キャラも人間関係も展開も沁みたから個人的にはグランプリ度:★★★★★

心身のすべてを費やしてきたライフワークを手放すとき、人は自分自身と折り合いをつけるためにさまざまな苦悩と対峙する。ましてや、ボクシングである。華々しい戦歴があるならまだしも、生死を賭けながら打たれるばかりで、負け込んで、年をとって衰えた二流の中年ボクサー。自分で幕引きのタイミングを決めなければならない主人公スティーブに、サミュエル・ジュイ監督は温かな魔法をかけた。スティーブと、彼を「スパーリング・パートナー」として雇ったチャンプは、不思議なバランスで響き合う。お互いを様子見するような浜辺でのランニングや、ホテルのカジノフロアでとつとつと展開する会話の場面に、研ぎ澄まれた日々を過ごした人間同士だからこその素朴な関係性が見て取れる。そしてスティーブが、ボクサーである以前に家庭人であるという魅力。愛情溢れるエッジの効いた妻、「男子はアホである」を忠実に体現する幼い息子、そして父親に全幅の信頼を寄せる娘オロール。無垢で繊細な天使の視線が、父親の価値観を支配する。オロールを演じたビリー・ブレインはまだ少年にも見えるような瑞々しさ。主演のマチュー・カソヴィッツは会見で「30年後も私たちはスクリーンで彼女を観ることになると思う」と言っていた。きっとそうなる、と思って震えた。

富田優子/好きこそものの上手なれ・・・に見放された人への温かい眼差し度:★★★★☆

好きこそものの上手なれ。こういう諺はあるが、これがすべての人に当てはまるとは限らない。主人公のスティーブにも、それに当てはまらなかった。ボクシングをこよなく愛しているがこれといった戦歴もないまま、歳をとってしまった。それゆえに引き際が難しく、葛藤している。
本作ではもう一人、好きなものの才能に恵まれていない人物がいる。スティーブの愛娘オロールだ。彼女はピアノが大好きだが、その才能があるかと問われれば、ノンと言わざるを得ない。ピアノ教師の言動や何よりも彼女の演奏はたどたどしく平凡であることから分かる。だが、スティーブはそんな娘の「ピアノを習いたい」という願いを叶えたいと、チャンプの“スパーリング・パートナー”となって奮闘する。努力が決して報われるわけではないことを、誰もが痛感していることだろう。だが本作は、父と娘をリンクさせつつ、二人の好きなものへの“片思い”を突き放すのではなく、温かく見つめている。神様は才能は与えてくれなかったが、努力に対してささやかなご褒美を与えてくれている・・・。そんな優しい気持ちにさせてくれる作品だ。


【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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