【TIFF】迫り来る嵐(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

©The Looming Storm

1990年代。ユィ・グオウェイは、中国の小さな町の古い国営工場で保安部の警備員をしており、泥棒検挙で実績を上げている。近所で若い女性の連続殺人事件が起きると、刑事気取りで首を突っ込み始める。そしてある日犠牲者のひとりに似ている女性に出会い接近するが、事態は思わぬ方向に進んでいく…。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

藤澤貞彦/心のどしゃ降り度:★★★★☆

時代は1997年。たまたま本映画祭でやっていた『メイド・イン・ホンコン』と同じ時代設定である。香港にとっての97年は、決して忘れることができない年であるのは当然だが、中国の人々にとってもまた、忘れることができない時代であったという空気感がよく出ている。湖南の小さな町で起こった連続殺人事件。「今年は何かがおかしい」と度々繰り返される刑事の呟き。「これからは自由に香港に行くことができるのかしら」という儚い夢。豊かになれるのかという浮かれた希望とは裏腹に、現実には国営企業の衰退による首切りが、庶民を絶望の淵に落としていく。特に湖南は経済では遅れを取っていたために、猶更憂愁の色が濃く立ち込める。いつ果てるともなく降り続く雨、人々はそのぬかるみに足を取られていく。工場に詰めかける黒い雨合羽の群れも、どこか暗い気分を醸し出す。最初は刑事ごっこのような軽い気分で事件に足を突っ込んだ警備員の主人公が、深くはまり込んでいったのは、そんな時代の罠だったのかもしれない。どこか郷愁もただようこの悲しい物語は、経済発展の道を走り続けてきた中国にとって、今だからこそ描かれるべきものだったに違いない。

鈴木こより/恐るべき新人監督の誕生度:★★★★★

はげしい雨とレインコートをまとった人たちの黒い波。舞台は90年代後半の中国で、人々の鬱々とした気分が画面から伝わって来る。主人公は工場の警備員だが、憧れの刑事のマネをして連続殺人犯を追っている。しだいにエスカレートして部下や恋人をも巻き込んでいくが、なぜ身近な人を危険にさらしてまで犯人に執着するようになったのか。その真実と理由を知るとき、このドラマのカラクリと構成力に驚嘆し、その背景にショックを受ける。主人公が犯人以上の犠牲者を生んでしまったことに闇の深さを感じるが、フェイクではなく本物の雪が降るラストシーンに、今度こそ悪夢ではない夢を見てほしいと願う。


【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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  1. ここなつ映画レビュー

    「迫り来る嵐」第30回東京国際映画祭

    コンペティション作品。中国映画。本作は、ドン・ユエ監督が最優秀芸術貢献賞を、主演のドアン・イーホンが最優秀男優賞を受賞。文句なし!!テーマもいい。混沌の中に加速度的に入って行く現代中国社会を描く。正に迫り来る嵐。その迫り来る嵐の中で、主人公の余(ユイ・グオウェイ)(ドアン・イーホン)が翻弄される様が切ない。骨太サスペンスではあるのだが、同時に哀しい滑稽さも溢れている。冒頭、どこかの刑務所からの出所風景。うだつの上がらない風貌の男が名前を確認されている。名字を聞かれて彼は答える。「余です。字は余分の余…

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