【TIFF】グレイン(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

© KAPLAN FILM / HEIMATFILM / SOPHIE DULAC PRODUCTIONS / THE CHIMNEY POT / GALATA FILM / TRT / ZDF / ARTE FRANCE CINEMA 2017

いつとも知れない近未来。種子遺伝学者であるエロールは、移民の侵入を防ぐ磁気壁が囲む都市に暮らしている。その都市の農地が原因不明の遺伝子不全に見舞われ、エロールは同僚研究者アクマンの噂を耳にする。アクマンは遺伝子改良に関する重要な論文を書いていたが、失踪していた。エロールはアクマンを探す旅に出る…。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

藤澤貞彦/今、そこにある危機度:★★★★★

近未来のSF作品とはいいながら、そこで起きている出来事は、まさに今進行中の問題であるところが不気味な作品である。遺伝子組み換えによる種の存続の危機、一瞬にして人が燃えてしまう磁気壁による流民の阻止、化学薬品による環境破壊、遺伝子が劣る者たちへの差別、デモに対しての政府の武力行使など。「息吹」か「種」か、どちらを選ぶかという問いかけが何度も現れる。それは自然の心を大切にするか人工的な技術を大切にするかという風に言葉を置き換えてもいい。それは今の社会への問いかけでもある。壁の外の廃墟や動くものが何もない荒涼とした荒野の、モノクロの映像美に圧倒される。壁の内の人工的で無味乾燥の建物とそれらが対比されるが、奇跡が起きる場所が崩れかけた昔の寺院であったこと、「死」の世界に「生」が宿るという逆転の発想に、監督の現実への考えや、世界が変わってほしいという、祈りのような気持ちが込められているように感じられた。

鈴木こより/もはや予言ではない度:★★★★★

近未来のようで、遠い昔の神話のようでもあるモノクロの世界。だけど物語は現実味を帯びていて、妙に心をザワつかせる。手間をかけずに大量生産できる遺伝子組換作物。人間にとって都合の良い選別は、世界をどう変えてしまうのか。この物語では、選ばれし者は人工的な街で管理された生活を送り、そうでない者は荒れ果てた土地に追いやられるという、二極分化した世界が描かれている。”完全な種子”とは? 調和を無視して”完全さ”を追求するほど、”不完全”になっていくというパラドクス。そして解決の鍵を握るのは、高度な科学技術などではなく、原始的な生き物であるという示唆。土や虫に触れることを避けている現代人にとって、これはもはや予言ではない。端正なビジュアルが導く知的なロジックに唸らされる。


【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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