【TIFF】アケラット-ロヒンギャの祈り(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

©Pocket Music, Greenlight Pictures

台湾行きを願うフイリンは貯金を失った結果、奇妙な仕事に手を出す。それはロヒンギャ移民に対する残虐行為に関わるビジネスだった。そんな彼女にとって一筋の光は、フイリンを昔の知り合いだと信じている若い病院スタッフのウェイだった…。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

藤澤貞彦/少数民族の悲哀度:★★★☆☆

劇中挿入されるマレーシアの影絵芝居が魅力的だ。マレーシア人とタイ人が登場人物として出てくるのは、映画の舞台となった土地がタイに接しているからである。タイを経由して逃げてくるミャンマーのロヒンギャの人たちと、台湾留学のための貯金を盗まれたことから彼らの人身売買に手を貸すことになった主人公。マレーシアに入ってきたい人たちと、逆に出ていきたい人たち、それが交差するのがこの物語だ。主人公は北京語(マンダリン)を話す華人ゆえに、政府のマレー人優遇政策の煽りを受け、国内では就学や就業が難しいという事情もある。そんな彼らゆえに、そのような違法ビジネスに手を染めたということもあるのだろう。いわばミャンマーの国内事情とマレーシアの国内事情によって、少数民族が傷つくという構図がそこにあるのだ。そのような深刻で大きなテーマを、ごく普通の女の子を主人公にして描いたところが、ユニークな作品である。

折田侑駿/現実を多様な見方ができる度:★★★★☆

舞台はマレーシアとタイの国境付近。手持ちのカメラは一人の少女・フイリンを追い続ける。揺れる画面に見えてくるのは、彼女の日常、この土地の現実、記憶、そして芽生える恋である。セリフにたよらず映像で綴っていく手法に、主演のダフネ・ロー、相手役のハワード・ホン・カーホウの存在が見事にハマっている。言葉を誘発するような、なんとも言えない表情がいいのだ。タイトルにある「アケラット」とは「来世」を意味する言葉のようだが、フイリンの瞳を見ていると、「(台湾、あるいは)ここではないどこか」への渇望を考えずにはいられない。静寂と、湿った暴力性が同居した、力強い一作だと思う。


【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net

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