ドリーム

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

1960年代初頭、旧ソ連との熾烈な宇宙開発競争での劣勢を覆すため、「宇宙飛行士ジョン・グレンを宇宙空間に送り出し無事に帰還させる」という合衆国の威信をかけた一大事業に尽力し、NASAの頭脳として最も重要な役割を担った3人の女性、キャサリン・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)、ドロシー・ヴォ―ン(オクタヴィア・スペンサー)、メアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ)。大きな功績を残しながらも近年までほとんど語られなかった驚くべきこの3人の先駆者たちの物語は、性別や人種、世代を超え、すべての世代を大きな夢へと導いた感動の実話だ。第89回アカデミー賞3部門(作品賞、助演女優賞、脚色賞)ノミネート。

【クロスレビュー】

外山香織/ファッションにも注目度:★★★★★

アメリカの宇宙開発史の陰に、ある計算手たちの功績があった。その知られざる物語に驚きながらも、何より胸が熱くなるのは、困難な中にあっても諦観に終わるのではなく、彼女たちが未来を見通しきちんと準備を行っていた、ということに焦点が当てられていることである。女性であること、有色人種であること、小さな子どもを抱えていること。これらは働く上で「ハンデ」となりうるものであり、仕事の選択肢が限られたり、昇進や職場環境など様々な面で制限がされる。しかし、ある者はコンピューターの到来を視野に独学でプログラミングを学び、ある者はエンジニアになるため夜間学校への入学を目指す。準備を怠らない者に機会は訪れる。彼女たちの仕事も差別的な環境も、宇宙開発と同様、一足飛びに変化はしない。しかし、その一歩一歩が、周囲の人間―ひいては現代を生きる我々にも―視点の転換や気づきをもたらしていく。さらに、彼女たちの服装がファッショナブルなのもポイントが高い。何ふり構わずがんばる!のではないのだ。仕事も夢も大事だが、自分らしいスタイルも、愛すべき家族も手放さない。何も犠牲にしない。きわめて全うな、清々しい映画だ。

富田優子:自分の仕事ぶりを振り返ってしまう度:★★★★★

1960年代の米国、有色人種そして女性というダブル差別に遭いながらも、ハンデを克服し、夢へと邁進する女性たちの物語だ。胸熱な場面や心に響く台詞も多々あり、彼女たちの奮闘に共感度100%。「毎日残業、無給!」という今ならブラック企業か!とツッコミたくなるNASAの仕事環境は勘弁願いたいが、それ以外では見習いたい点ばかりだ。
そのなかでも筆者が特に感慨深かったのは、先を読むことの大切さ。「ソ連よりも先に月へ行く」という国の絶対的悲願、そのためにはまずマーキュリー計画を成功させなければいけない。目先の事例だけにとらわれず、常にその先を見越して行動する。だからキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)の「数字の先を読む」天賦の才と、上司ハリソン(ケビン・コスナー)の月面着陸への挑戦が共鳴したときの爽快さといったらたまらない。その場しのぎの仕事は、結局実を結ぶことは少ないと実感すると同時に、自分の仕事ぶりを振り返ると耳が痛い。誰もが本作から何らかの気づきを得るだろう。それを見た人同士で語り合っても楽しいと思う。
余談だが、本作の日本公開決定時の邦題騒動は記憶に新しいが、あの「アポロ計画」云々は決して見当違いではなかったと思う。本作の登場人物たちは、常に月を目指していたから。例の邦題も「先を読んでいた」ことを思うと、つくづく残念な出来事であったと思った次第だ。

折田侑駿:夢も恋も友情もあきらめない度:★★★★★

原題は『Hidden Figures』で、直訳すれば「隠された人たち」だという。NASAの、ひいてはアメリカの華々しい成功を支えた、女性たちを指してのことである。そんなタイトルでありながら、堂々たる風格で彼女ら三人が登場する冒頭のシークエンス。あの楽しく爽快な一幕がよみがえってくる。どこまでも広がる青空、拓けた大地に続く一本道、エンスト起こした青い車、たまたまパトカーで通りかかる白人警官――。この一本の映画が持つ、様々な要素を一度にまとめたかのように、軽快に提示するシークエンスである。ここで見られる要素が、次々と具体性を持って展開されていく。彼女らの目の前にはいくつもの障壁が現れるが、それを前にして悪戦苦闘を繰り返すだけの話ではない。たとえば彼女らのいるコミュニティや、友情の絆はかたい。たしかに仕事人間の3人ではあるが、恋に友情、家族、プライベートは順調である。どのシークエンスにおいても、楽しいことと苦しいことの、波打つバランスが心地いい一本だ。


(C)2016Twentieth Century Fox
9月29日(金)より公開

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