PATERSON パターソン

時代や時間を超えた詩的生活

この映画に流れる程よいアナログ感と後引く余韻がたまらない。どこか純喫茶風というか、時代を超えた雰囲気がある。舞台はニュージャージー州パターソン。町と同じ名前をもつ、主人公パターソンの7日間が描かれる。バスの運転手である彼の生活はとても規則的。身体に刻まれたリズムで生きているので、時間に追われるなんてことはなく、目覚まし時計も使わない。スマホに自由を奪われるなど論外で、愛妻も彼の生き方を尊重している。乗務を終え、妻と夕食をとった後は、犬の散歩がてらに行きつけのバーに立ち寄り、マスターと雑談をしながら一杯ひっかける。判を押したような生活だけど、彼の目を通してみる世界は日々たしかに変化している。そして車窓から街やそこに住む人々を見つめながら、心に浮かんだ詩を秘密のノートにしたためる。彼にとって詩作はとても私的で自由なことなのだ。そして、そんな彼の生活こそが、規則性(リズム)と自由さ(変化)から紡がれる詩のようであり、魅了されるのである。

ところで監督のジム・ジャームッシュは独自のスタンスを守り、これまでも異文化との交流や接点を絶妙なユーモアで描いてきた。本作も、さまざまな国からの移民を受け入れ、それを見つめてきたパターソンという町を舞台にしている。バスの乗客やバーでの会話に耳を傾けると、登場人物の多くが別の国にルーツを持つ移民の子孫であることがうかがえる。バスの運転手として町を周回し、人々を見守るパターソンという名の主人公は、いわばこの町のメタファー的な存在でもある。さらに、彼のルーツは、ジャームッシュ監督の初期作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84) で描かれた、あの若者たちかもしれないと想像を膨らませる。新世界を夢見て東欧からニューヨークにやって来たその若者たちは、あてのない旅を続けるうちに皆離ればなれになってしまう。映画はそこで終わってしまうが、その後、フラフラしていた彼らもやがてニューヨーク近隣のニュージャージーに落ち着き、パターソンで職を得たかもしれない、と思えるのだ。本作『パターソン』は、見る人それぞれに見方や発見をもたらすような深みがあり、多くを語らずして実は多くのことを伝えているのだろう。他にも「なぜパターソンの妻はモノトーンの服しか着ないのだろう」とか「なぜこの町には双子が多いのだろう」とか疑問は尽きないが、いつか本作を見た人と語り合えたらと思う。
パターソンを演じたアダム・ドライバーには独特の雰囲気があり、こだわりの愛用品も気になるところ。ちなみに、あの工具箱のようなランチボックスについては「スタンレーボトルを買うということは良質なギアを手にするということ」といわれる名品で、軍隊でも使われているとのこと。さすが、ドライバー!である。


2017年8月26日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

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