「再会の食卓」悲しい歴史に翻弄された人々の、生きるパワーの源とは?

急速に発展が進む上海で夫シャンミンと子供、孫たちとともに、さほど裕福ではないが穏やかに暮らす初老の女性ユィアー。彼女の許に台湾から1通の手紙が届いた。それは、国共内戦で生き別れになったユィアーの元夫イェンションからのものだった。そこには、イェンションが40数年ぶりに上海に帰るのでユィアーを訪問したいという内容が記されていた・・・。

1949年、中国大陸で共産党と争っていた国民党が台湾に撤退したことで、中国と台湾の間では多くの分断家族が生まれた。台湾へ渡った人々の大陸への帰郷が許されたのは、1987年になってからのことだ。国民党の兵士だったイェンションは妻を上海に残し、台湾へ渡らざるを得なかった。ユィアーはイェンションとの間に儲けた幼い息子を抱え、絶望の淵に立たされて自殺しようとしたところを、シャンミンに助けられ、結婚した。シャンミンは国民党兵士の元妻と結婚したことで、出世の道を絶たれた。そんな彼の楽しみは家族と温かな食卓を囲むこと。

ユィアーはシャンミンとの間に2人の娘を授かっており、彼女たちは母親の元夫の来訪を「絶対に一悶着が起こる」とばかりに反対する。だが、シャンミンはイェンションを我が家に快く迎え、精一杯もてなす。皆で湯気が立ちのぼる食卓を囲み、杯を交わし、ゆったりとした時間を過ごす。最初は緊張していた面々だったが、時間が進むにつれ、次第に表情が緩んでいく。特にイェンションとシャンミンは、まるで昔からの友人かのように打ち解けている。娘たちが懸念した「一悶着」は杞憂に終わるかに見えたが、イェンションは思いがけない提案を口にする。「ユィアーを台湾に連れて帰りたい」と。そしてユィアーもその申し出を受け入れるのだ。さらに意外なことに(1人の女性を巡って2人の男が対立し、修羅場が繰り広げられる様子を期待(?)した人もいるかもしれないが)、シャンミンもあっさり同意する。だがそれはユィアーを愛していないからというわけではなく、長年自分や子供たちに尽くしてくれた妻の苦労に報いてやりたいという思いからなのだ。

観客はこの3人のうち、誰に感情移入するだろうか。恐らく、誰か1人だけの肩を持つことは出来ないだろう。3人それぞれの言い分が、あまりにも真っ当なのだ。イェンションは台湾に渡ってもなお愛し続けた妻と残りの人生を過ごしたいと願いも理解できるし、ユィアーの自分の人生のために時間を使いたいという希望も当然。そしてシャンミンの優しさにも納得できるのだ。どうすれば3人のための最善の方策がとれるのか・・・と考えると、見ている側も途方に暮れてしまう。いったいどこに、このモヤモヤした思いをぶつけたらいいのか。しかし、彼らは国家や党に対する不平不満をぶちまけるわけでもなく、誰かを激しく責め立てているわけでもない。誰が悪いというわけではないから、切なさや苦しさが余計に増幅されるのだ。

だが温かな食卓の様子を眺めていると、不思議と心が和み、温かさを感じる。ほわ~んと立ちこめる柔らかな湯気が食欲を刺激し、中国と台湾の歴史に翻弄され続けた彼らの悲しい運命を中和し、慰めているかのよう。そして、食卓を囲むこと=生きるパワーの源、であるかのように力づけられるのだ。
人は、時間の流れに抗うことはできない無力な生き物だ。時間を止めることも戻すこともできず、ただ流されていくだけ。彼ら3人も歴史の波に逆らうことはできず、各々の運命を静かに受け入れた。それでも大切な人と食卓を囲めば、どんなに辛くても、どんなに悲しくても、どんなに納得がいかなくても、今はまだそれらを乗り越えることができなくても、ほんの少しでも前へ進む元気が出てくるような、優しさが心に染み入る映画だ。

Text by:富田優子
オススメ度:★★★☆☆

製作国:中国
製作年:2009年
原題:Apart Together(団圓)
監督:ワン・チュエンアン(『トゥヤーの結婚』)
脚本:ワン・チュエンアン、ナ・ジン
出演:リン・フォン、リサ・ルー、シュー・ツァイゲン、モニカ・モー
公式サイト:http://shokutaku.gaga.ne.jp/
配給:ギャガ

2010年ベルリン国際映画祭 銀熊賞(最優秀脚本賞)受賞
2011年2月5日(土)よりTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開

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