【フランス映画祭】夜明けの祈り

映画と。ライターによるクロスレビューです

【作品紹介】

1945年12月のポーランド。赤十字で医療活動を行う若きフランス人女医マチルドのもとに、悲痛な面持ちで助けを求めるシスターがやってくる。修道院を訪れたマチルドが目の当たりにしたのは、ソ連兵の蛮行によって身ごもり、信仰と現実の狭間で苦しむ7人の修道女だった。そこにある命を救う使命感に駆られたマチルドは、幾多の困難に直面しながらも激務の合間を縫って修道院に通い、孤立した彼女たちの唯一の希望となっていく…。(公式サイトより)

【クロスレビュー】

鈴木こより/真の人道支援とは生きる勇気を与えること:★★★★★

女性だけの、無抵抗の修道院が兵士たちに襲われたという事実にまずショックを受ける。さらに、神に仕える女性が懐妊することを恥とし、誰にも助けを求められず、その事実を隠さなければならないという修道院ならではの窮地に言葉を失う。7人の修道女が同時に出産を迎えるという異常事態で、ひとりの若い女医が夜中にこっそりと赤十字病院を抜け出し、彼女たちを救おうと森の中を駆け抜ける。修道女の命を助けようとする女医と、修道院の名誉を守ろうとする修道院長の対立に、信仰の皮肉や人道支援の意味を考えさせられる。そして修道女たちが女医にみせる微笑みに、真の人道支援とは絶望した人々に生きる勇気を与えることなのだろうと思う。女医役のルー・ドゥ・ラージュが放つ女優としての魅力も相まって、とても見応えのある作品。

藤澤貞彦/神の沈黙度:★★★★★

カトリックには、そもそも未婚のまま子供を産んだということ自体が罪と考えられていた。ソ連軍の暴行のためではあるが、修道院のシスターたちが、一遍に妊娠させられていたというのだから、事は重大である。この作品には、神は何も答えてくれないというテーマも流れている。何も答えてくれないからこそ、その神に頼りすぎたからこそ、修道院長は本当に大切なものが何かを判断する力を失っていたのである。これと似たことは、宗教界以外にもある。「イラク戦争は間違っていた」こう言う元外務官僚も、組織にいる時にはそれが正しいと信じていたという。よく考えているつもりでも、実は別の何かに支配されていたに過ぎなかった。違いは、それが組織であるか、神であるかだけである。こうした時、その考えを打破してくれるのはやはり外部の者であり、それも呼応できる内部の人がいることが絶対であることが、この作品を観ているとよくわかる。本作では、赤十字という組織ではなく、いつも命の側に立っていた医師だからこそ、修道院の観念を打ち破り、命を救うことができたのだろう。

折田侑駿/多様な生き方の肯定に背中を押される度:★★★★☆

想像に耐え難いほどの恐怖に見舞われた修道院の、その後、が描かれているが、主人公である女医が同じような目に遭いそうになり恐怖の一端を目撃することで、いつどこにでも起こりうることだと思い当たり震え上がる。また、純白さを主張する雪を纏った森の中、皆の導き手である修道院長の、誤った判断と罪を目撃してしまう。出口が明示されない森の存在が、観客であるわたしたちの過ごす今この時も、これらの恐怖は続いているのだと示しているかのようなのだ。現実を受け入れていく彼女たちそれぞれの、多様な生き方と穏やかな微笑み。国籍も宗教も超えて育まれる絆と彼女たちの勇気は、ラストショットの写真のように、ボっとこの目に焼き付いて、いつまでも離れることはないことだろう。


© 2015 MANDARIN CINEMA AEROPLAN FILM MARS FILMS FRANCE 2 CINÉMA SCOPE PICTURES
8月5日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開

【フランス映画祭2017】

日程:6月22日(木)〜 25日(日)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:カトリーヌ・ドヌーヴ
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2017/
主催:ユニフランス
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本/CNC/フランス文化省/フランス外務省
協賛: Procirep/ルノー/ラコステ/エールフランス航空/スターチャンネル
運営:ユニフランス/東京フィルメックス

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