【フランス映画祭】愛を綴る女

映画と。ライターによるクロスレビューです

【作品紹介】

愛を綴る女フランス南部の小さな村で両親と妹と暮らすガブリエル。若くて美しい彼女はいつも、真実の愛、そして結婚について理想を思い描いていた。しかし現実は違い、両親は正直者で情の深いスペイン人労働者のジョゼとの結婚を決めてしまう。ジョゼは彼女に献身的に接するのだが、ガブリエルはジョゼを愛することは決してないと誓うのだった。ある日、持病の結石の治療のためアルプスの療養所に送られる。そこでインドシナ戦争で負傷した魅力的な帰還兵アンドレと出会う。それが彼女が紡ぐ愛の物語の始まりだった―。つかの間の日々に彼女が求めた愛の姿とは―。ミレーナ・アグスのベストセラー小説「祖母の手帖」(新潮社)をニコール・ガルシアが女性監督ならではの手腕で再構築。フランスが誇る国際派女優マリオン・コティヤールが、一人の女性が愛の真髄にたどりつくまでの17年間をストイックかつエロティックに演じた、繊細で美しい大人のラブストーリー。(公式サイトより)

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/白馬の王子様度:★★★☆☆

愛されることを知らなかった女は、SEXが愛だと信じていた。故に愛を感じていない夫には、お金を貰うことでしかベッドを共にすることができなかった。彼女の恋する人に受け入れられない苦しみは、狂気一歩手前に迫っており、それを演じるマリオン・コティヤールが体当たりの演技を見せていて迫力満点。彼女と関係する3人の男は、教師、夫、傷ついた軍人。「嵐が丘」を贈った教師により破滅させられ、「幸福論」を贈った軍人によって絶望に落とされるのが興味深い。男たちは、どこかD・リーンのメロドラマの男たちを思わせる。『ライアンの娘』のロージーが憧れるのもまさに、これと同じ。SEXに幻想を抱いているところも少し似ている。歪んだ愛に抑え込まれていたロージーと、厳格で愛が育まれなかった家庭に育ったこの映画の主人公。愛すること、愛されることの本当の意味を知るまでの彼女の人生遍歴の奥に、実は女性の白馬の王子様願望が隠されているような気がしてしようがない。

外山香織/もしかしておとぎ話!?度:★★★★★

ヒロインは愛を渇望するも好きになった人からは相手にされずフラストレーションがたまる一方。妄想的で不穏な彼女の行動を心配した家族は結婚相手を見つけてくるが、愛のない結婚は満ちたりるはずもなく……。特に前半は彼女の行動が突飛すぎてなかなか受け入れがたく、後半は落ち着いてくるもラスト15分からまさか!?の展開に。ツッコミどころは満載だが、幸せの青い鳥は身近にいると言う結末も含め全体的におとぎ話的な印象。愛も幸せも求めているうちは気づきにくいものなのだろう。療養所でのマリオン・コティヤール&ルイ・ガレルの美しさに目を奪われるも、終わってみればこれも観る者を惑わすトラップか。このたびニコール・ガルシア監督は体調不良とのことで来日は叶わなかったが、製作側の意図などを聞いてみたいところだ。

折田侑駿/強すぎる愛に言葉を失う度:★★★★★

人々の目に異常だとさえ映ってしまうほど、情熱的に愛に向かう一人の女・ガブリエル。彼女が愛の激情に駆られる時、その奇矯な行動とは裏腹に、大きな瞳には静かに涙が湛えられる。物語冒頭の彼女の涙が、17年前の彼女が身を浸す川の水へと繋がっていったように、象徴的な水は、海や雨、シャワーや飲み水として、ときに激しく、ときに穏やかに、ガブリエルと結びつく。太陽と溶け合う海を眼下に臨み、17年間一度も夫として認められなかった男(後半彼女は、対面上、あるいは自分に言い聞かせるように認めている)の、あまりにも強く大きな、そしてさりげない愛の一言に、思わず息を呑んでしまった。愛することだけでなく、愛されることの歓びを知った彼女の、スッキリとした横顔を見て、それまでこの映画を支配していた音楽を中心とした悲壮感は、温かく優しいものへと変わっていたことに気付いた。

杉本結/これぞ大人のラブストーリー:★★★★☆

話題作への出演が続くマリオン・コティヤールが本作では主人公ガブリエルをエロティックに演じている。真実の愛を追い求めるが両親の決めた相手ホセとの愛のない結婚。理想と現実のギャップに苦しむ姿をみているといたたまれない気持ちになってくる。どんより曇り空の下に浮かない顔のガブリエルの描写が続く。ガブリエルが持病の治療のために療養施設へ行けることになったときには少し夫婦の距離を置くという意味でも良かったと感じる。だが、そこで運命の相手とも思えるアンドレと出会ってしまう。
この作品で魅力的なのはガブリエル、ホセ、アンドレの三人が三者三様の愛の形をもっているところだ。ガブリエルの思いのままに突き進む愛は二人の男からどんな愛を与えられるのか。ホセの優しく包み込むような愛に気づいた時にはストーリー構成の素晴らしさに拍手したい気持ちでいっぱいになる。
作品の時系列の操作をうまくすることでただのラブストーリーにサスペンスの要素が組み合わさり最後まで伏線の回収に追われすっきりと回収できるので見終わった後の満足度も高くなる作品だ。


© (2016) Les Productions du Trésor – Studiocanal – France 3 Cinéma – Lunanime – Pauline’s Angel – My Unity Production
10/7(土)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

【フランス映画祭2017】

日程:6月22日(木)〜 25日(日)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:カトリーヌ・ドヌーヴ
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2017/
主催:ユニフランス
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本/CNC/フランス文化省/フランス外務省
協賛: Procirep/ルノー/ラコステ/エールフランス航空/スターチャンネル
運営:ユニフランス/東京フィルメックス

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