【フランス映画祭】セザンヌと過ごした時間

映画と。ライターによるクロスレビューです

【作品紹介】

セザンヌと過ごした時間ポスト印象派の巨匠セザンヌと『ナナ』『居酒屋』の文豪ゾラ。エクス=アン=プロヴァンスで出会い、幼いころから夢を語り合ったふたり。やがてゾラはパリに出て、新聞の評を書きながら小説家として成功を収める。一方、セザンヌも画家を目指してパリで絵を描き始め、サロンに挑むが落選続き。栄光を手にしたゾラと、心を閉ざしていくセザンヌ。そして、ゾラの別荘で久しぶりに再会したふたりは、「ある画家」をモデルにしたゾラの新作を巡って口論となる…。セザンヌ役は『不機嫌なママにメルシィ!』でセザール賞作品賞など主要5部門受賞のギョーム・ガリエンヌ。ゾラ役を『戦場のアリア』の実力派ギョーム・カネが熱演。長年の映画化の夢を膨大なリサーチによって叶えたダニエル・トンプソン監督最新作。セザンヌの縁の地で撮影を敢行、プロヴァンスの美しい光を捉え、名画の世界へと誘う。運命的な絆が生んだ、深い友情と創造の奇跡に心打たれる感動作。(公式サイトより)

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/愛と憎しみのバラード度:★★★★☆

例え、セザンヌのことをよく知らなくても、冒頭パレットに広げられた絵の具の色は、いかにもセザンヌらしさを醸し出しているし、有名なサント・ヴィクトワール山の実景には、素直に感動してしまう。この作品は、セザンヌとゾラ2人の長年にわたる友情とその破綻までを、年代をパズルのように組み替え丹念に綴っている。特に2人の関係を悪化させた小説「制作」をストーリーのメインに据え、実はその主人公が2人をミックスさせたものであり、付いたり離れたりしながらも2人がいかに相手を意識し、影響しあい創作活動をしていたかを示しているところが興味深い。母親以外愛せなかったゾラと、銀行家の父親への反発から俗社会のすべてに反抗するセザンヌは、他人を愛せないという意味では同類であり、それが2人を強く結びつけていたのだろう。親の影響から離れたとき、ゾラは初めて幸せな家庭を持つことが叶い、セザンヌもようやく絵が認められていく。その時を境に2人の関係が完全に終わるのは、象徴的である。これは伝記映画というだけでなく、人生における友情の意味を描いた作品とも言える。

鈴木こより/2人の作品にあらためて興味を覚える映画:★★★★☆

画家セザンヌと文豪ゾラの友情と葛藤に魅せられる。他所者ゆえイジメられ母子2人で貧しい幼少期を過ごしていたゾラと、裕福な家庭で不自由なく育った腕白なセザンヌ。性格も家庭環境もまったく違う2人だけど、とても気が合い長年にわたって刺激的な交流を続けていく。大人になり、ゾラは一方的にセザンヌを支え続けているようで、じつは創作活動においてセザンヌから多くのインスピレーションを受けているし、恋人も横取りしたりしている。一方、セザンヌは人にも物にも執着せず、ひたすら風景と女性とリンゴを描いていく。セザンヌにとってリンゴはゾラとの友情の証なのだろう。他人と距離を置いていたのは、人の心に無関心だったわけではなく、むしろその繊細さから自分を守るためであり、またオリジナリティの追求に必要なことだったのかもしれない。互いの人生に大きく影響し合う友情関係から、彼らの知られざる内面に迫っていく描写にゾクゾクした。2人が生み出した作品にあらためて興味を覚える映画。

外山香織/創作者のジレンマ度:★★★★★

世間に評価されなかった画家と成功した文豪。対照的に見える彼らだが、監督が「この作品では『生みの苦しみ』を描いた」と言うように、創作者の「性(さが)」、「業」に苦しめられたのは共通している。激しい気性も相まって出来栄えが気に入らないとすぐにカンバスを破くセザンヌ。一方のゾラは穏やかな性格ではあるが、私はゾラの方が苦しかったのではないかと推察する。創作者が作品を生み出そうとするとき、彼は自分の生や魂を削り出す。どこまで自分や周囲を犠牲にできるのか。それを端的に表しているのがゾラの小説「制作」ではないだろうか。主人公の画家は成功を果たせず絶望のうちに自殺する。自分がモデルと感じたセザンヌは怒り、以後関係は冷え切っていくわけだが、「居酒屋」「ナナ」「ジェルミナール」の頃のような熱量を持って書けないと感じていたゾラにとって、友情を引き替えにしてでも書きたいものがあったのではないか。セザンヌとゾラ、この唯一無二の関係に思いを馳せるとき、私たちもまた新たな気持ちで彼らの作品に触れることができるだろう。


© 2016 – G FILMS – PATHE – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINEMA – UMEDIA – ALTER FILMS
9月、Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開

【フランス映画祭2017】

日程:6月22日(木)〜 25日(日)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:カトリーヌ・ドヌーヴ
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2017/
主催:ユニフランス
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本/CNC/フランス文化省/フランス外務省
協賛: Procirep/ルノー/ラコステ/エールフランス航空/スターチャンネル
運営:ユニフランス/東京フィルメックス

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