『武曲 MUKOKU』熊切和嘉監督
——熊切監督の題材選びにおけるこだわりは?
原作ものを依頼されることが多いんですけど、結構僕、好みが偏ってるというか、原作ものであれば、その作者の眼差しに共感できないとダメなんです。多少興味があったとしても、ちょっと偽善な臭いを感じたりすると、もう一切受け付けなくなっちゃう。
——なんとなく、監督の作品には、鬱屈したものを抱えた主人公が多い印象があります。
特別意識はしてないんですけど、そういうものが好きなんじゃないかと思われて、そういう話がくることは多いです(笑)。違うタイプの主人公もやってみたいんですけど、なかなか。ただ、自分で考えると、わりと後ろ向きな人になってしまいますね。
——『莫逆家族 バクギャクファミーリア』があったり、『夏の終り』があったり、監督の作品は爆発的なバイオレンスと静かな人間ドラマとの振り幅が印象的です。
いつのころからか、そういうのを交互に撮ってる感じがします。今回の『武曲 MUKOKU』は両方の要素があるかなと思いますけど。極端な感情表現が好きなんですかね。それはあるような気がします。いつも思うのは、登場人物をたがが外れた境地にもっていきたいというか。それが「狂気」と言われたりするんですけど。その、一度決壊して、そこから再生していく部分がないと、なんだか自分の映画を撮った気がしないんですよね。
——監督にも、何かから一気に解放されたようなご経験が…?
自分もそこで一緒になってるんだと思いますね。僕はウィリアム・フリードキン(『フレンチ・コネクション』『エクソシスト』)とか好きなんですよね。最後地獄におちるじゃないですか(笑)。わけのわからない感じにいっちゃう、ああいうところが「映画だ」って思うときがあって。だから、映画を観ていてああいう違う境地に連れて行かれると、逆にすごく自由を感じるんですね。決して日常で使える自由ではないんだけど(笑)。
——熊切監督が映画を撮り続ける原動力は?
僕の場合は、小さいときから映画だけがほんとに好きなものだったので…。クラスでも「映画のことならアイツに聞け」っていうことで市民権を得ていたので、世界が広がってもそんな状態でいたいなっていう意地がありますね。
熊切和嘉(くまきり・かずよし)
1974年生まれ、北海道出身。大阪芸術大学の卒業制作作品『鬼畜大宴会』(98)がぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞、注目を浴びる。2008年『ノン子36歳(家事手伝い)』がロッテルダム国際映画祭スペクトラム部門ほか数々の国際映画祭に出品され、国内でも「映画芸術」誌の日本映画ベストテンで1位を獲得。その後も『海炭市叙景』(10)が東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、シネマニラ国際映画祭グランプリ及び最優秀俳優賞をはじめ、多数の受賞を果たす。『私の男』(14)ではモスクワ国際映画祭最優秀作品賞と最優秀男優賞の二冠を達成し、毎日映画コンクール日本映画大賞も獲得。近年の主な作品に『夏の終り』(13)、『ディアスポリス-DIRTY YELLOW BOYS- 』(16)などがある。
6月3日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
(c)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会