ムーンライト

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

自分の居場所を探し求める主人公の姿を、色彩豊かで革新的な映像美と情緒的な音楽と共に3つの時代で綴った本作は、北米で大ヒットを記録し、第74回ゴールデン・グローブ賞では作品賞(ドラマ部門)を受賞、第89回アカデミー賞®では作品賞・脚色賞・助演男優賞(マハーシャラ・アリ)の3部門受賞。LGBTQをテーマにしたラブストーリーが作品賞を受賞したのはアカデミー賞史上初のことであり、まさに歴史に残る快挙となった。

名前はシャロン、あだ名はリトル。内気な性格で、学校ではいじめっ子たちから標的にされる日々。自分の居場所を失くしたシャロンにとって、同級生のケヴィンだけが唯一の友達だった。 高校生になっても何も変わらない日常の中で、ある日の夜、月明かりが輝く浜辺で、シャロンとケヴィンは初めてお互いの心に触れることに……。

【クロスレビュー】

外山香織/「生きにくさ」を感じる人々へ:★★★★★

※下記レビューは、映画のラストに触れています。
寡黙で俯きがちだった「青年」から「大人」への変貌。本来なら2章から3章へ移るところが主人公にとって激動のはずだが、そこはあえてクローズアップされない。性的マイノリティ、麻薬中毒の母親、いじめなど様々な要素を包含しながらも、それらをどぎつく脚色することなくヒューマンドラマとして仕立てられている。ある事件から数年後、その世界でそれなりにのし上がったシャロン。以前の風貌をがらりと変えた彼が、ダイナーを営む同級生ケヴィンと会う時には昔の心持ちに戻る。一方で、ケヴィンがシャロンのために料理を作るシーンも情の深さを感じる。長い時を経て向き合った彼ら。この感情、この関係に名前などつけなくても、良いではないか。ただ、自分を気にかけてくれる人が世界に一人でもいると言うことが、どんなに心強いことか。「何か」にカテゴライズされ、そこからはみ出したり疎外されて苦しむ人間に降り注ぐ、柔らかい月の光のような映画だ。

富田優子/3人のシャロンの眼が同じであることが驚異的度:★★★★★

※下記レビューは、映画のラストに触れています。
主人公シャロンの幼年期、少年期、青年期と3部構成で物語が紡がれていくが、主人公を演じる俳優がそれぞれ違うのに、違和感がないというよりまるで同じ人物に見えた。特に3人の眼が同じに感じられたことには、本当に驚きだ。3人のシャロンは口数が少ないが、細やかな表情や視線で、その心情を表現。彼がずっと胸に秘めていたある人への想いを、終盤の「あの夜のことをずっと覚えている」というセリフに至るまで、大切に、大切に繋いだジェンキンス監督の繊細な演出力にはお見事というより他にない。
舞台は米国南部のマイアミ。熱い日差しが降り注ぐ地なのに、シャロンが輝くのは月の光のなか。マイノリティである彼が陽の目を見ることは、難しいのかもしれない。だが彼を捉える映像はアート的でエモーショナルで、とても柔らかい。誰にでもきっと輝く場所がある。どんな人生をも肯定するささやかな幸福感に、あわあわとした余韻を噛みしめた。主人公の心情に寄り添うようなピアノの優しい音色も、深い印象を残す。


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3月31日(金)、TOHOシネマズシャンテ他にて全国公開

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