わたしは、ダニエル・ブレイク

映画と。ライターによるクロスレビューです。

富田優子/サッカーネタでも期待に応えたケン・ローチ監督度:★★★★☆

本作は正直なところ、ケン・ローチ監督の最高傑作ではないと思う(個人的には『エリックを探して』がベスト)。だがカンヌが本作にパルムドールを与えた意味は大きい。常に社会的弱者に視線を注いできたローチ監督だが、本作では福祉制度の矛盾に抗う人に寄り添い、そして怒る。名匠の怒りは行政の支援が必要な人にそれが行き届かないという、何とも不可解な事態が日常化している世界に向けられている。どうしてまっとうな人間がまっとうな生活を送ることができないのか、どうして実直な人間ほど生きづらい世の中になってしまったのか。その「どうして」の思いがカンヌの審査員の心を動かしたのは想像に難くない。そしてその価値は充分にあるし、80歳の名匠の反骨精神を受け止めたい。
物語としては大変深刻で、どんなに追い詰められても人としての矜持を失わなかった主人公に激しく心が揺さぶられるのだが、その一方でサッカー好きとして有名なローチ監督、本作でもサッカーネタをぶち込んできた点には笑える。とはいえ話題となったチャーリー・アダム(ストーク・シティ)のスーパーゴールはチェルシー戦で決められたもので、チェルシーファンの自分からすれば微妙ではある。そのために★は4つということで(苦笑)。


c Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, LesFilms du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and TheBritish Film Institute 2016
3月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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