【TNLF】国王への手紙
作品紹介
オスロ行きのバスに乗り合わせた5人の難民たち。過去の清算をする者、新しい未来への一歩を踏み出す者、それぞれの1日のエピソードを優しいユーモアで包みこんだ秀作。年老いた男が綴る「国王への手紙」によって、5つのエピソードは有機的に結びつき、故郷を追われる哀切を鮮烈にあぶりだす。
2014 年アマンダ賞: 脚本賞、助演女優賞(公式サイトより)
クロスレビュー
藤澤貞彦/難民たちの哀しみ度:★★★★☆
難民キャンプからオスロへのバスでの旅。わずか1日のエピソード、1時間15分という短い上映時間の中に、難民たちの気持ちが詰め込まれている。国王へ手紙を出す83歳の老人は、イラクのクルド人。10数年前フセインによって突然村を爆撃され、あるいは子供たちがさらわれ、命からがらこの地に逃れてきたという事情が語られる。国に帰って息子の供養をしたいと願っているが、未だにそれは叶わない。他の人たちについては、細かい背景はわからない。この作品は、そうしたことよりもむしろ、彼らが今幸せでないこと、未来に希望がないという現実の方に重点が置かれている。難民の問題は、受け入れる国の側にとってももちろん深刻ではあるが、難民たちの立場に立てば、彼らも移動したくてこの国にやってきたわけではないのである。その苦しい胸の内が、老人の国王への手紙に収斂されており、それ故に手紙が風に舞っていくラストが切ない。各国が難民受け入れに対して消極的な方向に向かいつつある今だからこそ、もう1度原点に立ち返る必要があり、この作品はそうした意味でも重要な作品と言えるだろう。
鈴木こより/ありふれた日常こそがすべて!度:★★★★☆
この映画に出てくる5人の難民は、生まれ育った国が違う老若男女。母国の情勢不安や貧困から逃れるため、北欧ノルウェーまで辿り着いた人たちだ。普段は郊外の難民向け施設で生活しているが、それぞれ目的をもってオスロ行きのバスに乗りあわせる。オスロでの時間を通して彼らの過去や目的がわかってくるのだが、悲惨な過去よりも、彼らの今に目が向けられる。そして彼らが切望するものが、自分が当たり前だと思っている普通の日常であることに、改めて衝撃を受ける。母国での家族との暮らし、仕事とその対価、そして恋。声高な語り口でないことが、かえって静かに胸に迫る。世界的に難民問題は切り離せないものになっているが、国王へ宛てた手紙は本作を観るすべての人に送られる手紙でもある。
トーキョーノーザンライツフェスティバル 2017開催概要
映画祭会期:2017年2月11日(土)~2月17日(金)
会場:ユーロスペース
イベント会期:2017年1月21日(土)~2月19日(日)
主催: トーキョーノーザンライツフェスティバル実行委員会
公式サイト:http://tnlf.jp/ (映画祭以外にもイベントが盛りだくさん。詳しくはこちらから)
※1/21(土)のオープニングイベントではラース・フォン・トリアーの「キングダム」イッキミ!を開催するほか、切り絵作家アグネータ・フロック展やアイスランド写真展、音楽イベントなど盛りだくさん。来日ミュージシャンによる伴奏付きサイレント映画の上映も!
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※前売り券はe+(イープラス)のWEBサイトにて販売中。前売り券は作品、日時指定でご購入いただけます。全席自由席、各回入れ替え制で、上映開始10分前から整理番号順のご入場となります 。整理番号をご確認の上、必ず開場時間までにお越しください。