ラ・ラ・ランド
【作品解説】
監督は28歳にして『セッション』で数々の賞レースを賑わせ、世界中を虜にした新進気鋭のデイミアン・チャゼル。ジャズピアニストのセバスチャンには業界引く手数多の実力派俳優で『きみに読む物語』、『ブルーバレンタイン』や『ドライヴ』などで知られるライアン・ゴズリング、ミア役には『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞を始め数多くの賞にノミネートされたエマ・ストーンなど超豪華キャストが集結。圧倒的音楽×ダンスで贈る極上のエンターテイメント!
【クロスレビュー】
富田優子/完璧なる現実逃避映画度:★★★★★
LAの高速道路での群舞から主演二人の出会いに至る一連のオープニング・パフォーマンスで、うおっ!と一気に引き込まれた。いとおしい場面(天文台でのE.T.もびっくりの(?)満天の星の逢びきシーンは最高!)や心躍る歌やダンスの連続には嬉しくなる。エマはどこをどう切り取ってもキュートだし、ピアノ演奏もこなしたゴズりんの切ない表情(に一束垂れる前髪)は悶絶もの。愛に満ち、夢が溢れている作品だ。
それにしても本作が絶大な支持を得ているのはなぜなのか。当然、クオリティの高さが理由であるのは間違いない。だがそれと併せて米国大統領選が一因にあると思う。国を二分する、罵り合うような選挙を経て新大統領が誕生したが、分断の傷は癒えるどころか亀裂は深まる一方。非米国人の私ですらげんなりする選挙だったのに、その渦中にあった国民はいかばかりか。現実を忘れたい、映画でくらい幸せな気分にさせてと思っても不思議はない。結果、本作は選挙で疲弊した人々の現実逃避的存在になったのではないか。なぜなら本作には差別も憎悪も貧困もテロも戦争も存在しない。社会的メッセージもない。ただ一途に夢を追う若者の姿に胸が高鳴り、共感する。カオスな時代にあって純粋な明るさと楽しさを求めたくなるのは、ごく自然の流れなのかもしれない。
鈴木こより/エマ・ストーンの魅力全開:★★★★☆
ここ最近、有名な監督や人気俳優らとのタッグで出演作に恵まれてきたエマ・ストーン。顔もスタイルもオーラもハリウッドで群を抜いて…というわけでもなく、個人的には「何がそこまで良いのだろう?」と少々疑問に思っていた女優だ。が、本作を見てようやくその謎が解けた。これはスゴい、やるなぁ、と。今回はそのゴージャス過ぎない感じが生かされる役柄で、今の地位を掴むために血の滲む努力をしてきたのだろうと思わせるところがヒロインと重なる。歌もダンスも本当に素晴らしい。それでいて完璧すぎない感じがかえって心に響く。技術そのものではなく、情感の豊かさや、研ぎ澄まされた勘の良さが彼女の強みであり、ここではその魅力を余す所なく発揮している。最後のオーディション・シーンで心を動かされない人はいないだろう。
ジャズはよくわからないけど、ダンスシーンはとても表情豊か。冒頭ノーカットのパフォーマンスは圧巻だし、丘の上のタップダンスはエマとライアンの息もピッタリで、言葉より雄弁な感情表現を堪能した。
藤澤貞彦/ザッツ・エンタテインメント度:★★★★★
ジャズはほろびゆくジャンル、年寄りしかお客さんが来ないよ。いやいやそんなことはない。ジャズだって、往年のミュージカル映画だって、今に生き返らせることができるんだ。実際、映画館に若い観客が押し掛けているのを見るにつけ、デイミアン・チャゼル監督の主張は、見事に受け容れられたと言える。ウディ・アレンが言うのじゃ当たり前過ぎ。でもこの監督まだ32歳。それでこの心意気。嬉しくなってしまう。冒頭スタンダードサイズ、モノクロの画面がパァーと広がり、シネマスコープの文字。もうこれだけで映画ファンの心を掴みとる。数々の映画へのオマージュが詰め込まれる中で、サイレント時代のルビッチ作品『陽気な巴里っ子』の“ミュージカル・シーン”の手法まで取り入れているのには、本当にビックリ。音楽もルイ・アームストロングからホーギー・カーマイケル、チャーリー・パーカーまで。冒頭はミシェル・ルグランっぽいし、もうこの人、本当に首までどっぷりジャズと映画に浸かって育ってきたのだろうなと想像してしまう。『理由なき反抗』をやっていた映画館が潰れたのをはじめ、ストーリーはさすがに現代。昔そのままには行かないよという匙加減も見事で、本当に幸福な128分であった。
外山香織/夢を追い何かを失うほろ苦さ:★★★★★
冒頭、人々が渋滞する車列から飛び出し、夢に対する思い”Another Day of Sun”を歌い踊るシーンはこの映画そのものを表している。前作『セッション』同様、デイミアン・チャゼル監督は夢を抱いて都会に出てきた人間を主人公に据えた。本作はミュージカルということもあってか、前作で見せた音楽のためなら魂をも売り渡す壮絶バトルとは異なり、より王道でキレイなファンタジー的印象。しかし、ラストの「タラレバ」シーンが表すように、夢を叶え、何かを失うというステイトメントは通底しているように思う。主演二人が体現したジャズと映画への熱い思いは監督自身のものに他ならない。個人的には強烈な毒を放つ『セッション』の方が好きだが、今後の監督の作品にも期待したい。
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.
2月24日 TOHOシネマズみゆき座他全国ロードショー