【イスラーム映画祭2】泥の鳥

バウル音楽はすべての壁を超える

この作品は、2002年製作ということであるから、独立30年を意識した形で製作されたものかもしれない。もう1度あの時の自分たちの原点を思い出そうよという意味で。しかし、この作品はそれだけにとどまらないところがある。それは作品のところどころで挿入されるバウル音楽のためである。今でこそユネスコ無形文化遺産に登録もされたバウルだが、元々はこの言葉自体に差別的な響きがあったものだという。上映後のトーク・セッションによると、物乞いというような意味があるということだそうだ。1弦琴のエクターラと、ドゥブキと呼ばれる太鼓を従えた歌は、インド風でもあり、また掛け合いをするところなどは中国の二人台(アルレンタイ)のようでもあり、とても魅力的なものである。独自の宗教的伝統を持っていて、ヒンドゥーとも、イスラームとも、仏教と、まったく異なるものであり、それゆえ広くベンガル地方では、宗教を超えて受け容れられている。劇中で披露されていたものを聴くと、歌詞はさらに魅力的で、既成概念に囚われることなく、人間の自由や、愛を説いたものになっていた。学生たちが、パキスタン政府への反乱に向かう前に、彼らの歌を聴いているシーンがあったことから、バウル音楽は、この地方の人々が宗教を超えて団結していく、ひとつのメタファーにもなっていたのかもしれない。

また、もうひとつ踏み込んで考えてみると、この映画製作時のバングラデシュは、先住民族(ジュマ)との争いが絶えず、幾多の事件が起こっていたため、それへの警鐘として、その意味でもう1度原点に帰ろうという自戒も込めて、バウル音楽が挿入されていたとも考えられなくもない。彼らが宗教も、民族も、既成価値も超えた、自由な存在だからである。いずれにしても、バウル音楽を入れたことによってこの作品は、バンクラデシュ地域だけの問題ということではなく、世界の平和への智恵を私たちに示しているかのような広がりを見せはじめ、大きな深みをもった作品へと昇華されたと言える。

【開催概要】

【東 京】※全9作品
会期 : 2016年1月14日(土)~20日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース( http://www.eurospace.co.jp/ )
【名古屋】※全9作品
会期 : 2016年1月21日(土)~27日(金)
会場 : 名古屋シネマテーク( http://cineaste.jp/ )
【神 戸】※全8作品
会期 : 2016年3月25日(土)~31日(金)
会場 : 神戸・元町映画館( http://www.motoei.com/ )



主催 : イスラーム映画祭実行委員会
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