【イスラーム映画祭2】マリアの息子

聖母マリアの慈愛、クルアーンの寛容と少年の純真

神父さんが倒れた時、彼を助けようと奔走する少年を周りの大人たちは応援する。「それはクルアーンの教えにも沿った立派な善行だから」と。確かにイランでは、カトリック教徒は法律的にも不利なものがあり、社会的な差別を受ける存在ではある。けれども、ここでは宗教やそうした差別の違いの前に、まず人間があるのである。聖母マリアの優しい顔に惹かれる少年の心、神父さんを信頼し心から心配する彼の心は純真そのものであり、人間が本来持っている心そのものなのである。村人たちが、神父さんに寄せた心も、人が本来持っているものなのである。決して宗教の違いが、憎しみや差別を生むのではない。それは別のレベルで作りだされるものなのだ。当たり前ではあるけれど、なかなか当たり前とはいかないこのことが、この作品ではストレートにこちらに伝わってくる。

この作品が作られた頃のイラン(99年)は、穏健なモハンマド・ハータミーが大統領の時代、西欧諸国との関係改善を図ろうと努力していた時代でもある。(途中『ミスター・ビーン』がテレビ放映されているシーンは、まさにこの時代の政治を象徴しているといえる)ただし、アメリカとの関係は、02年ブッシュ大統領によって、「悪の枢軸」と名指しされるなど、決してうまくいくことがないまま政権は終焉を迎える。そんな時代、イランでは、キリスト教に対してこんなに寛容な作品が作られていたのである。先日放映されたテレビ番組「BS世界のドキュメンタリー『暴かれる王国 サウジアラビア』」では、小学生の教科書に、キリスト教徒に対して憎しみを抱きかねないほどの偏見が書かれていたことが記録されていて衝撃を受けたものだったが、アメリカと敵対していたイランでは、逆にこのような作品が作られていたのである。サウジアラビアはアメリカとの関係が良好なはずだけに、何か不思議な感じがするが、イランの青少年がこのような作品を観ていたのかと思うと、ほっとさせられる。

【開催概要】

【東 京】※全9作品
会期 : 2016年1月14日(土)~20日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース( http://www.eurospace.co.jp/ )
【名古屋】※全9作品
会期 : 2016年1月21日(土)~27日(金)
会場 : 名古屋シネマテーク( http://cineaste.jp/ )
【神 戸】※全8作品
会期 : 2016年3月25日(土)~31日(金)
会場 : 神戸・元町映画館( http://www.motoei.com/ )



主催 : イスラーム映画祭実行委員会
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