【イスラーム映画祭2】私たちはどこに行くの?

女性たちが、母たちが世界を変える!

私たちはどこに行くのレバノンは、これまで内戦や戦争が絶えなかった。地理的な要因のため、イスラエル、PLO、シリア、ヒズボラ(外国勢力ではないがイランと繋がりがある)ら外国勢力がこの国に居座り、戦闘を繰り返してきたこともある。しかしながら、宗教の歴史博物館とも言われる国だけあって、実際には通りを挟んでムスリムとキリスト教徒が共生していることは、ナディーン・ラバキ監督の旧作『キャラメル』(舞台はベイルート)でも示されていたところである。

『私たちはどこに行くの?』はムスリムとキリスト教徒の間で内戦があり、すっかり荒廃した村の話である。分裂していた村人たちは、ようやく元に戻りつつあるが、それでも男たちの間には、常に一触即発の緊張状態が続いている。一方、女たちはその度に集会を開き、何とか危機を回避しようと、色々な方策を練る。

黒い服に身を包んだ女たちの集団が、戦争で亡くなった自分たちの愛する家族が眠る墓に向かうところから映画は始まる。ムスリムはチャドル、キリスト教徒は十字架を身につけている。それぞれかつては敵同士で闘った遺族の女性たちが、ここでは共に墓へと歩んでいくのである。敵対していても、この村では墓地はひとつ。死んだら同じ土地に葬られることになるのである。このシーンで、この映画の意図するところ、すなわち宗教を超えて共生していくところにこそ、この国の未来はあるというテーマが、もう伝わってくるのだ。

このシーンがさらに驚きなのは、彼女たちは音楽に合わせ、リズムを刻んで歩いていくのである。その後のシーンでも、この作品は全体を通じて、歌うシーンが挟みこまれており、それは、かつてのフレンチ・ミュージカルを彷彿させるものとなっている。深刻なテーマにも関らず、この作品にはそんな軽やかさもあるのだ。もちろんその理由は、この物語が、女たちの語りになっているということもあるだろう。かつて私たちの村ではこんなことがあった…。なのである。実話ではなく、これがあくまでお伽噺的なものであることが、この形式を採用することで示されている。

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