(ライターブログ)『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』
このたびは、オーストリアにあるウィーン美術史美術館の舞台裏に迫る作品をピックアップ! 美術館映画はいくつかありますが、それぞれの美術館の歴史や地域によって抱える問題などが異なり、興味深いですね。ウィーン美術史美術館は、名門ハプスブルク家のコレクションを所蔵する、まさに“Great”という言葉にふさわしい美術館の一つでしょう。
しかしGreatな美術館でも集客は必要だし「お金」は重要なテーマです。どんな国家も文化や芸術に回される予算はふんだんにあるわけではなく、予算を勝ち取るためにその必要性を説き、他業種・他機関と競争しなくてはなりません。オークションに臨んでも落札を諦めたり、内部ミーティングで絵画館長が財務責任者に「前回より予算額が減っている」と噛みつくと、「そっちだって、ブリューゲル展は経費がかかりすぎだ」と言い合いになったり(このシーン、よく使用が許されたな……)。なんだか、一般の企業と変わらないなあと思えます。 とは言え、重くのしかかるハプスブルクという名。「名門一族の忠実な僕か、あるいは現代人として市場に委ねるか」。そして美術品を扱っている以上、作品を修復・保存していく使命もあるわけです。一方で、展示室の照明に新進アーティストの作品を起用したりと、現代との繋がりを感じさせるところもあります。過去の遺産にしがみついたままではなく、今後も生き続けるための新たな挑戦。その意味では、このドキュメンタリー映画も大きなひとつの挑戦なのだと思います。
さて、映画の最後に映し出されたのは、ネーデルラントを代表する画家ピーテル・ブリューゲル(父)(1525?~1569)の「バベルの塔」(1563)です。ブリューゲルが描いたバベルの塔は三点あると言われていますが、一点は失われ、現存するうちの一点が先述の作品(「大バベル」)、もう一点はオランダのボイマンス美術館に所蔵されています(「小バベル」。こちらは、2017年に東京都美術館で開催される展覧会にて来日予定)。描かれているのは、旧約聖書の創世記第11章1-9節、バビロニアの地に天に届くほどの塔を建設しようとした人間が神の怒りを買うというエピソード。神を無視した傲慢さ、不可能な事業を可能と見た愚かさ、己の名を広く知らしめようとした高慢さ……。神は、(一つの民、一つの言語を持つからこのようなことになる。ならば分けてしまおう)と考え、以後人間は違う言葉を話す民族に分けられ、むろん塔が完成することもなかった、という顛末。「バベル」という言葉はヘブライ語の「神の門(babil)」を表しますが、混乱を意味するbalalにも解されています。イニャリトゥ監督の映画『バベル』(06)を思い出す人もいるのではないでしょうか。