【FILMeX】苦い銭(特別招待作品)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

苦い銭雲南省出身の15歳の少女シャオミンは、長距離列車に乗り、遠く離れた東海岸の浙江省湖州へと向かう。シャオミンの目的は縫製工場で働くことだ。そこでは様々な土地から出稼ぎにきた女性たちが働いている……。ワン・ビンの最新作は、縫製工場で働く女性労働者たちを通して現在の中国の一つの側面を描き出す。映画はシャオミンの旅から始まるが、その後、カメラは数名のキャラクターの間を自在に移動し続ける。とりわけ強烈な印象を残すのはシャオミンの同僚リンリンで、彼女が夫の激しい暴力に抵抗する場面はこの映画の白眉であると言えよう。本作はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でワールド・プレミアを飾り、同部門の脚本賞を受賞した。
(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/出稼ぎ労働者はつらいよ度:★★★★☆

カメラが、女性を追いかけていくと、こっちへいらっしゃいと手招きする。カメラに向かって、男性がしゃべりかける。「もう、今日はこれくらいにしておいた方がいいんじゃないの」ほとんど語らず、控えめに人物の後を追いかけているだけなのに、撮られている者が、撮影者を意識している。しかも、彼が自分たちの仲間であるかのように振る舞っている。この距離感が、王兵(ワン・ビン)なのである。映像に監督の人柄が滲み出てしまう。彼を通して、観客もその場に居合わせたかのような気分になってしまう。衣料品を扱う零細工場で働く出稼ぎ労働者たち。ギャンブルで給料を使いこんでしまい酔っぱらう工員、仕事が遅くてクビになった工員、夫婦ゲンカの絶えない女子工員、初めて田舎から出てきた若い女子工員。社長でさえ、自分のサイフの中身を足してようやく給料を払えるという、苦しい経済状態である。そんな彼らの日常が身近に迫ってくる。自分たちの周りにある低価格の服も、こんなところから来るのだろうか。グローバリゼーションのひとつの厳しい現実が、素肌レベルで伝わってくる。どんな理屈もこの映像には敵わないのだ。

富田優子/日常の風景から中国経済の歪さが見てとれる映画度:★★★★☆

中国の地方都市の縫製工場にやってくる出稼ぎ労働者たちのドキュメンタリー。日本なら「これブラック企業でしょ?」と言いたくなるような厳しい労働環境だが、粛々と仕事をこなす人もいれば、低賃金・長時間労働に不平不満を垂れたり、職場に馴染めずに去っていく人もいる。ワン・ビン監督はフラットな視点で、適度な距離感を保って彼らの日々をカメラに収めている。誰かに同情したり批判したりするようなことはない。だが日常の風景に徹しているだけなのに、中国経済の歪な部分が浮かび上がってくるという、ワン監督の卓越した手腕が光る。
ふと頭をよぎるのが日本で売られている「Made in China」の服。今、自分が着ているニットももしかしたら彼らが手がけた商品だったのかもしれない。服を袋詰めにする際に足で踏みつけたり、自分たちが作った服を「質が悪い」とか言ってのけたりするさまに苦笑するとともに、彼らの厳しい生活が日本とも繋がっているであろうことに、苦い余韻を残す。


▼第17回東京フィルメックス▼
期間:2016年11月19日(土)〜11月27日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2016/

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