【FILMeX】THE NET　網に囚われた男（特別招待作品） ： 映画と。

【作品紹介】

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妻子と平穏な日々を送っていた北朝鮮の漁師・ナムは、網がエンジンに巻き込まれたトラブルにより、意に反して水上の韓国との国境を越えてしまう。韓国の警察に捉えられたナムは、スパイと疑われて拷問を受け、更には韓国への亡命を強要される。妻子の元にただ戻りたいだけのナムは自らの意思を貫き、ついに北朝鮮に戻ることになる。表面的には資本主義の誘惑に打ち勝った英雄として北朝鮮に迎えられたナムだったが、彼を待っていたのは更に過酷な運命だった……。キム・ギドク作品のトレードマークであった極端なバイオレンスは本作では封印され、体制に翻弄される一人の男の姿が重厚に描かれた傑作。ナムを演じたリュ・スンボムの熱演も見どころだ。
（東京フィルメックス公式サイトより）

【クロスレビュー】

外山香織／不運としか言いようがない度：★★★★★

本作上映前、キム・ギドク監督が「土曜の夜に、こんな暗い映画を観ていただくことになって…。でもこれが我々の現実なんです」と舞台挨拶されたので覚悟して観た。アクシデントで北朝鮮から韓国にたどり着いてしまった男が、体制の判断により犯罪者にもなれば英雄にもなるおかしさ。自らの居場所を失くしてしまう恐怖。韓国の警護担当の青年の優しささえ、本人にとってはありがたくないものになってしまう悲哀。男はただ不運だっただけだ。それなのに、「自分は網を張って魚を取り過ぎた。今度は自分が網にかかってしまった」と、自らの宿命として受け入れざるを得なくなるところまで追い込まれてしまう。本作は、「誰かが悪い」と声高に批判しているわけではない。むしろ、両国の社会の歪みを冷静に捉えつつ、誰かを悪者にして満足する社会の在り方、その愚かしさを問いかけているのではないかと感じる。そしてその愚かしさは、日本の社会にも言えるということも。

藤澤貞彦／キム・ギドク監督の熱い思いにほだされた度：★★★★☆

この作品全体を通じて流れているのは、素朴な漁師の男の家族への愛である。それは、漁に出掛ける前の夫婦のやりとり、破れて何度も縫い合わせた跡がある、娘の熊の縫いぐるみに凝縮されている。その対極には、北朝鮮、韓国両国の国家保安部の職員たちがいる。「こういう奴らがいるからいくら経っても祖国は統一されないんだ」そう言われる彼らもまた、イデオロギーにしばられるだけでなく、数々の不幸な歴史を背負っている。国家の思惑と個人の幸福との断絶をわかりやすく描いた作品という意味では、これは1つの寓話かもしれない。しかし、これは現実に起きていることでもある。日本に帰国したものの、家族恋しさに2年で北朝鮮に帰ってしまった日本人妻が、記者会見で「金正日マンセーイ」と叫んでいたニュースは、今も強烈に脳裏に残っている。素朴な漁師の物語が、悲しければ悲しいほど、逆にキム・キドク監督の自国への思い、危機感が強く感じられ、胸が熱くなる思いがした。

▼第17回東京フィルメックス▼
期間：2016年11月19日（土）〜11月27日（日）
場所：有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト：http://filmex.net/2016/