【FILMeX】よみがえりの樹(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

よみがえりの樹舞台は中国陜西省の山間の村。映画は、数年前に亡くなった女性シュウインの魂がその息子レイレイに憑依した、という設定から始まる。レイレイの姿を借りたシュウインは、レイレイの父、つまり自分の夫に対し、自分の願いを伝える。それは、結婚当時に植えた木を別の場所に移植してほしい、というものだった……。チャン・ハンイの監督デビュー作である本作は、一種の幽霊譚とも言うべき作品だ。映画の中では幾つかの不可思議な出来事が起こるが、そういった出来事が奇異なものではなく、ごく当たり前のように描かれている点が興味深い。ジャ・ジャンクーが若手監督作品をプロデュースする「添翼計画」の最新作。ベルリン映画祭フォーラム部門で上映。
(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/柳田國男度:★★★★☆

陝西省咸陽市付近、黄土高原と呼ばれるところが舞台となっている。風景がとにかく珍しくて、見いってしまう。冬枯れした森、切り立った山と、その斜面に作られた窰洞(ヤオトン)と呼ばれる横穴式住居、乾いた土のレンガ造りの家々。かつては、リンゴ栽培が盛んだったこの場所も、すでに農家の人は年を取り、リンゴの樹も彼らの死と共に枯れていっている。それがこの村の寂れていくさまを、何より象徴している。この場所で、樹はとても貴重な資源であり、結婚祝いに樹を植えるのが、習わしのようだ。この村が無くなる前に樹を別の場所に植え変えたいと、10年前に亡くなった女性が息子に憑依するのだが、そのことを誰も疑いもせず、皆が当たり前のように「どうして戻って来たんだ」と会話しているのが、面白い。ここでは、こうしたことや、動物が人間に化けたりすることが、当たり前のように受け入れられている。実際にはそんなことはないのだろうが、それがどこか日本のお伽噺にも通じるようなところがあり、親しみを覚えてしまう。失われゆく文化を画面に焼き付けておきたい、その象徴が樹であり、民俗学的な感性を感じる作品である。

富田優子/消えゆく文化への惜別の思いは伝わるけれど・・・度:★★★☆☆

中国で時代の波に取り残された地方の人々の生活を紡ぐストーリーは、東京フィルメックスでは毎年1作品は上映される定番のものと言えそうだが、本作はそれに加え、輪廻転生というファンタジーとスピリチュアルな要素を加味した、ユニークな作品となっている。長回しのショットに収められた荒廃した村や、その近辺で工場が立ち並ぶ様が印象的だが、消えゆく文化を留めようとするかのように、主人公の亡き妻が息子に憑りついてまで樹を移植したいという願いを叶えようとするのが切ない。
ただ、どうしても気になってしまったのが少年の演技。彼の身体には母親の霊がのりうつったという設定なのだが、彼(彼女?)の動作があまりにも少年の“まんま”なのだ。もう少し女性らしい仕草を出すように演出しなかったのだろうか。それとも何らかの意図があったのか。実はこの点を上映後のQ&Aで聞きたかったのだが、指されなかったのが残念。登場人物の表情をほとんど捉えない作風も、少々ストレスを感じた。


▼第17回東京フィルメックス▼
期間:2016年11月19日(土)〜11月27日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2016/

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