【FILMeX】バーニング・バード(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

バーニング・バード2011年東京フィルメックスで上映された『フライング・フィッシュ』に続くサンジーワ・プシュパクマーラの待望の監督第2作。舞台は1989年、内戦中のスリランカの村。平凡な主婦・クスムは、ある日突然、夫を民兵に拉致され、殺害されるという悲劇に見舞われる。8人の子供たちと年老いた姑を養うためにクスムは街に出て働き始めるが、その先には途轍もない苦難が待ち構えていた……。実際に内戦の時代を経験したプシュパクマーラの暴力や女性蔑視に対する怒りがストレートに表現された力作。カンヌ映画祭レジデンス、エルサレム・フィルムラボなどの協力を得て完成し、プサン映画祭「ニュー・カレンツ」部門でワールド・プレミア上映された。
(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

藤澤貞彦/あまりの悲惨さに溜め息つきまくり度:★★★☆☆

内戦そのものではなく、夫を民兵によって殺され働かざるを得なくなった妻と、追い詰められていくその家族の悲劇を描き、ただただ悲惨な物語である。繰り返し描かれる食事の風景、貧しく狭い家の中、一家の主を失い寄り添う家族の風景は、まるで絵画のように人物が整然と配置され、その空気は悲しみをたたえている。仕事を転々とし、次第に身を落としていく妻。採石業、食肉業、そして・・・。働く現場によって周りの人間もおのずと変わっていく。絞り取るものと、虐げられるもの。豊かさと貧しさが交叉する。職場の管理人から暴行を受けうずくまる彼女の肉体と、屠殺場の家畜の姿が、どこかイメージとして重なる。女性蔑視の極み、その悲惨。儀式めいたラストシーンは、現実なのか、はたまた夢だったのか。燃え上がる炎は、内戦の時代に生きた女性たちの恨みを代弁しているかのようで、胸が苦しい。

外山香織/言葉を失う度:★★★★★

悲劇、と言うよりもはや惨劇である。ここでは「女」であると言うだけで圧倒的な弱者だ。店の経営者や学校の校長など、力を持っているのは男。田舎の村に唯一残された肉体労働に従事するのも男。そしてその中に「まとも」な男はいない。声を挙げてもおそらく彼らによってかき消される。はびこる暴力と圧倒的な貧困。苦しむ主人公に優しい言葉をかけるのは、力を持たない一部の女だけだ。最終的に、主人公は負の連鎖を断ち切るかのようにある行動に出る。そして残された子どもたちは、一番上の娘に託される(しかしながら、「女」であるがゆえに長女の未来にも不安が残る)。本作の舞台は1989年、それほど昔の話ではない。しかも、プシュパクマーラ監督自身も11歳の時に父を失い、8人兄弟の長子として母とともに一家を支えたと言う。様々な苦労を経て、現在映画監督として活躍していること、そしてこのような作品を世に放っていることは本当に素晴らしいことだと思う。一方で、監督にここまで描かせた、描かざるをえなかった怒りと哀しさを思うと、またやりきれない。


▼第17回東京フィルメックス▼
期間:2016年11月19日(土)〜11月27日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2016/

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