ミュージアム

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

© 巴亮介/講談社 © 2016映画「ミュージアム」製作委員会

© 巴亮介/講談社 © 2016映画「ミュージアム」製作委員会

今最も勢いのある俳優・小栗旬と、日本映画に新風を巻き起こした大友啓史監督の史上最強のタッグが仕掛ける、衝撃のノンストップ・スリラーエンターテイメント。原作は『ヤングマガジン』に発表された巴亮介の同名コミック。スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭、韓国の釜山国際映画祭での上映など、国外でも大きな注目を集め称賛を浴びた話題作である。
雨の日だけに発生する連続猟奇殺人事件。死体を見せることにこだわる犯人・カエル男は、自らをアーティストと呼び、犯行現場には必ず謎のメモを残す。連続する事件の関連性を捜査する刑事・沢村(小栗旬)と部下の西野(野村周平)は、驚愕の次のターゲットに気づく。カエル男の罠にはまり、逆に追い詰められていく沢村。謎の“私刑”執行アーティスト・カエル男は一体誰なのか?その本当の目的とは?そして、沢村が絶望の密室(ミュージアム)で見たものとは…!?

【クロスレビュー】

富田優子/大友監督、小栗旬をカッコよく撮ってくれてありがとうございました!度:★★★★★

『ロボコン』『宇宙兄弟』などの柔らかい小栗旬も良いのだけれど、彼には凄みを感じさせる役が一番似合うと思う。だから本作の、謎の殺人鬼カエル男を執念で追う沢村刑事役は適役だ。カエル男との対峙では苦悶で歪んだ表情と果てしない絶叫を見せるが、これがまた絵になるのだからファンは悶絶ものだろう。彼を愛でるには過去最高の作品だと思う。その点では大友監督を「小栗くんをカッコよく撮ってくれて、ありがとうございました!」と拝み倒したいくらいだ。
ただその一方で、残念な点もあった。本作の物語の性格上、グロい描写も多い。前半、生きたまま犬に食い殺される女性や肉を切り取られる男性など、カエル男の被害者のビジュアルは凄惨で見事で見応え(?)があり、物語の展開に引きこまれたのだが・・・。終盤、クライマックスに向かうにつれて説明過多のセリフの応酬となってしまい、若干白けて緊張感が途切れたのが惜しまれる。とはいえ、小栗を大きいスクリーンでひたすら見つめることができる眼福は、何物にも代えがたい。多少の欠点を補ってなおあまりある、小栗の魅力が炸裂している。恍惚の132分を堪能されたし。

北青山こまり/ともあれ、大雨の日の鑑賞は絶対おすすめできない度:★★★☆☆

謎の連続猟奇殺人に刑事が追い詰められていく日本版『セブン』。主人公の刑事、沢村役の小栗旬は、任務に没頭するあまり家庭を顧みず、妻子を失いかけて初めて、そうと知らずに重ねてきた己の罪の大きさを思い知る。犯人に翻弄されフラフラになりながら、なんとか光を取り戻そうとあがく男の弱さと強さに、小栗旬がハマっていた。警察署の内装がなかなかにレトロ。同僚の刑事役もそれぞれのキャラクターが粒立ち、野村周平、松重豊、丸山智己はじめ長身の個性派が揃っていて印象に残る。原作漫画の展開をかなり忠実に再現している描写もありつつ、オリジナルの設定も加えられていた。犯人である「カエル男」が背負う重いハンデが見ていて辛いので(しかも妻夫木聡が演じていると思うとより同情的になってしまい)、新しいエピソードがなにか救いにつながるのかなと期待したのだが…当然ながらそれも、彼の醜悪な行為を正当化できる理由にはならない。この手のフィクションを観るとき、なんとも虚しい気持ちになるのと同時に、どこかそれをエンターテインメントとして楽しんでいる自分がいるのがわかる。「カエル男」の思う壺だ。心底、自分が嫌になる。

外山香織/体調が良い時の鑑賞をおすすめする度:★★★★★

※下記レビューは物語の結末に触れています
museumの語源はギリシャのムセイオンにあるとされている。ゼウスの娘である9人のミューズを祀った場所。そこから収集した作品を展示する博物館、美術館として発展していく。本作のカエル男は自らを神のごときアーティストと錯覚し、被害者を作品として展示、独自のミュージアムを展開しようとする。しかしながらその渾身の作が自分ではなく、さえない凡人の作と誤認されてしまったことが許せない。しかもその判定を下したのが「何も分かっていない」一般人であるから尚更だ。だが、真に芸術を追求する人間は、世間の評価など得られなくても邁進するであろう(殺人は止められるべきであるが)。次々と起こる処刑、犯人の目がいつしか事件を追う刑事に注がれる展開、究極の選択を刑事に迫るクライマックスなどは映画『セブン』(95)を想起させるが(正直、あの場面で供されるハンバーガーが〇〇の肉だったら『セブン』のグロさを超えていただろう)、本作は裁判員制度を下敷きにし、犯罪の異様さの一方で人を裁くことの重さを炙り出している点が特色だ。主人公もまた自らの罪を見つめ多くの犠牲を払ってカエル男と対峙する。降りしきる冷たい雨&夜という舞台設定と対照的な役者陣の熱演が光った。


11月12日(土) 全国ロードショー

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