【TIFF】見習い(ワールド・フォーカス)
作品紹介
刑務所に勤務する28歳のアイマンは死刑執行人補佐の仕事を与えられ、65歳の執行人ラヒムのもとで働くことになるが、亡き父が実はラヒムによって死刑にされていたことを知り、心が乱れはじめる…。ブー・ユンファン監督は、短編集が東京国際レズビアン&ゲイ映画祭などで、また長編第1作『Sandcastle』(10)がSintok2012シンガポール映画祭(東京)で紹介されている。(TIFF公式サイトより)
クロスレビュー
藤澤貞彦/死刑制度のむごさ度:★★★★☆
本作は、死刑反対ということを全面的に押し出しているわけではないにも関らず、ジワジワと死刑制度に対する疑問符が湧きあがってくるような作品となっている。それは、死刑囚からのアプローチではなくて、あくまでも、死刑にされた父親を持つ主人公アイマンと、彼が見習いにつく死刑執行人のラヒムとの間の緊張感溢れるドラマをメインにしたことによるものである。仕事に対しては厳しく、上司でも何でも構わず意見を言う職人肌タイプのラヒム。彼がどうこの仕事と折り合いをつけて、またプロ意識を持ってやっているのかが、丹念に描かれている。その一方、一見穏やかに見える彼が、アイマンとのやり取りの中で化学反応を起こしたかのように、時に激しく揺れ動くところに、こういう仕事に携わることに対しての理不尽さが、静かに滲み出してくる。親子のような信頼関係が生まれつつあった、アイマンとラヒムの悲劇は、やはりこのような仕事で出逢ってしまったことに尽きるだろう。ラヒムがいい人間なだけに、そのことが辛い。
外山香織/観終わって呆然とする度:★★★★★
アイマンの家にある写真には、父母と姉の姿はあるが彼は映っていない。母はその時彼を身籠っていたのだろうか。となると彼が父といた時間はほとんどないかもしれない。にもかかわらず、死刑囚の子としての人生を余儀なくされる。ようやく得た刑務官としての職。父のことがあるとは言え、この選択の理由は、彼の言によれば、軍隊や刑務所と言った「規則」の厳しい場所に馴染んだ(好んだ)結果のようだ。規則と言うのは馴染んでしまえば楽で、時として人々の思考を奪う。規則だからと言う前提があれば疑念を持たずに済む。執行人ラヒムもそうやって自分を納得させてきた。裁判で決まったから。自分の仕事は、苦しまずに死なせてやること。人には理解され難くても。ラヒムは「ヤワな大学卒」ではない、軍隊出身の寡黙な青年に自分と似たものを感じ、補佐に抜擢したのかもしれない。彼なら理解してくれる。ゆえに「もし冤罪だったら?」と彼に問われた時は激昂し、父について黙していた彼に裏切られたと感じたのだろう。制度がある以上、その下で身を処さねばならない死刑囚と執行人は同類である。こんな形で苦しみながら、彼らは生きて死んでいく。死刑制度の是非は問われるべきである。しかし、アイマンを主人公にすることで、それだけを声高に叫ぶのではなく、社会が定めた規則に対する我々の盲目的な態度を問うているように思える。そして、規則を覆すのは容易ではないと言うことも。
第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/