【TIFF】ザ・ティーチャー(ワールド・フォーカス)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

© 2016 Rozhlas a televízia Slovenska, PubRes s.r.o., OFFSIDEMEN s.r.o., Česká televize

© 2016 Rozhlas a televízia Slovenska, PubRes s.r.o., OFFSIDEMEN s.r.o., Česká televize

1980年代のチェコ。一見優しくて仕事熱心な女性教師が、新学期に生徒ひとりひとりの親の職業を聞いていく。彼女は生徒を盾に、親が職人であれば自宅の台所の修理をさせるなど、教師の立場を乱用していた。エスカレートする行為に、ついに一部の親が立ち上がったが、他の親は尻込みをする。女教師は共産党員であったから…。脚本家のペトル・ヤルホフスキーが実際に少年時代に体験した話を、現在のチェコを代表する監督のひとりであるヤン・フジェベイクが映画化した。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

外山香織/日本でもあるある!度:★★★★★

観終わって、まず実話ベースということに驚き、先生役がカルロヴィ・ヴァリ映画祭で主演女優賞獲得というのに納得。教師の職権濫用のすさまじさには怒り心頭だが、もしも自分が当事者だったなら、苦情に署名をするのをためらってしまったかもしれない。名前が公に出るのが怖い? 仕返しが怖い? 他の家もやってる? 少し我慢すればそのうち変わる? 校長が主催した保護者会では、言葉にならない気持ちが水面下で行き交っているようだった。その場では言えないけど後でこっそり来るシーンには苦笑してしまうと同時に、日本でもたぶん同じだろうと思う。例えば、上司のパワハラだって似たようなものではないだろうか。映画は1980年代のチェコが舞台であり、共産主義時代を背景に悪役はだいぶカリカチュアされているが、誰が見ても明らかな「おかしさ」「悪」に対し、真っ向から太刀打ちできないのは時代を超えて現在でもあることである。正しいこと、あるべきことを通すことの難しさをコミカル要素満載で描いた快作。

藤澤貞彦/世の中の不平等度:★★★★☆

最初の授業で、なぜ先生が子供たちに親の職業まで言わせているのだろうと、疑問に思っていたら、自分の強い立場を利用して、無料で色々な世話をしてもらいたいということだった、というのがまもなく判り、唖然とする。昼間の生徒たちの顔と同時に、先生の職権乱用についての話し合いに集まってきた親たちの姿を重ね合わせていく導入部がうまい。親の仕事や地位が、子供に影を落としていることが、一目瞭然となるからだ。話し合いの席では、先生の悪行を訴え出た、勇気ある、しかし弱い立場の人々が、弁護士や医者など地位の高い人、また、先生の取り巻き主婦連たちに苛められる。先生の糾弾に賛同する側に付こうとする人がいれば、脅してまで、自分の既得権益を守ろうとする人もいる。賛同したくても、声を上げられない弱い人々を抑え、いつでも強者は自分たちの主張を通していくものだ。これは共産主義時代のスロバキアが舞台となった作品だが、こうした構図は、いつの時代でも、どこにでも通じるものと言えるだろう。ラストも皮肉が利いていた。


第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/

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