【TIFF】アクエリアス(ワールド・フォーカス)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

aquarius

© 2016 CINEMASCÓPIO – SBS FILMS – GLOBO FILMES – VIDEO FILMES

ブラジル北東部の港湾都市レシフェ。65歳のクララは夫に先立たれ、1940年代に建てられた海辺の高級マンションで平穏に暮らしていた。しかし、地域の再開発が進み、マンションは地上げの対象となった。住人は次々と退去していくが、クララは自分の人生が詰まっている部屋を売り渡す気はない。クララは業者に抵抗し、そして自分の過去と未来とも対峙する…。長編第2作でカンヌのコンペ入りを果たしたフィリオ監督は、ひとりの凛とした女性の生き様を見事に切り取ってみせた。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

藤澤貞彦/地上げ屋の悪質度:★★★★☆

主人公の女性は音楽評論家。もちろん、MIDIファイルでも音楽を聴くが、たくさんのLPを大切にしている。そこには、音だけでなくその時々の記憶までもが刻みこまれているからだ。ジョン・レノンのダブル・ファンタジーを中古で買ったら、中に古い新聞が入っていて、これから発売するアルバムの評が入っていた。「ジョンの未来を示すアルバム」と。しかし、その数週間後に、彼は銃弾に撃たれる。このエピソードにぐっと心を掴まれた。古いアパートメント「アクエリアス」を手放そうとしない主人公。彼女にとって家は家族の記憶が刻まれた場所である。古い個性的な住宅がLPなら、個性のない高層マンションは、彼女にとってはMIDIファイルのようなもの。家族の記憶は、家や古いタンスを通じて受け継がれていく。人の未来なんて、一歩先は闇であるからこそ、それは大切なものである。彼女の人生や、地上げ屋との闘いを通して描いたこと。それは、経済を優先し、利便さ優先することで、失うものの大きさであった。

鈴木こより/窓からの眺めがプライスレス度:★★★★★

こんな部屋に住んでみたい。窓からはビーチが見え、波の音や通りを行き交う人の声が聞こえてくる。夫に先立たれたクララは家族の思い出が詰まった部屋で、愛着のあるものに囲まれ、好きな音楽とともに過ごしている。しかしこの地にも資本主義と地上げの波が押し寄せ、立ち退きを要求する管理業者から執拗な嫌がらせを受けることになる。これが本当に悪質! 時は2010年頃のブラジル。彼女の生活を通してブラジルの社会格差に触れているが、オリンピックを迎えたリオではもっと酷い状況だったのでは、と想像する。けれどラストにみせるクララの反撃が最高。きっと誰も彼女からは過去も未来も奪えないだろう。黒くて長い髪が印象的。


第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/

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