【TIFF】フロム・ノーウェア(ワールド・フォーカス)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

フロム・ノーウェア

(c)No Place Like Films, LLC

アメリカはNYのブロンクスにある高校。ドミニカとペルー出身の女生徒と、アフリカ系の少年の3人は、他の生徒と同様に普通のアメリカ人として育ったものの、親が不法移民であるために正規の滞在権がない。いつ強制帰国させられるか分からない。学校側が動き、彼らを無事卒業させるべく、市民権取得のために弁護士を紹介する。かくして、彼らは否応なく自分の家族とその過去に向き合うことになっていく…。移民問題が世界を揺るがすなか、元祖移民の国アメリカに日常的に起こりうる事態を描く。他の生徒と同様に、遊び、学び、将来の夢を見るはずだった少年たちの運命が、その背景や事情により大きく狂っていく様に心をかきむしられるドラマである。予想できない三者三様の展開がスリリングに描かれ、大きな感動に結びつく。巧みな演出手腕を発揮したマシュー・ニュートンはオーストラリア出身の人気俳優兼監督。サウス・バイ・サウスウェスト映画祭で見事観客賞を受賞した。

クロスレビュー

外山香織/声を発せない人々に寄り添う真摯さ:★★★★★

幼い頃に親に米国に連れて来られ、そのまま不法移民となってしまった主人公たち。市民権を得るには、本国に帰れば身の危険が迫るという事実(例えば肉親が殺されたと言うような)があれば有利だと弁護士は語り、そういうネタを見つけてこいと言うが、まずそれ自体が酷なことだ。不幸であればあるほど勝てるのだから。結果的に、居候している伯父家族に虐待を受けている少女は有利、一方で心優しい青年は家族を守るためにあきらめ家を飛び出す…。さらに彼らは不条理な現実があっても不法状態であるがゆえに黙して語らない。SOSを発することすら難しい。いや、その方法もわからないのだろう。「君は戦わなくていい。代わりに自分が闘う」との弁護士の言葉がそれを表している。移民問題が世代を超えて波及していく中で、顕在化しづらくなっている現在。法整備を待つのではなく、声を潜めて生きている彼らとともに動いていかなければと本作は訴えている。

富田優子/不法移民問題はアメリカだけの問題ではない度:★★★★☆

親に連れられてアメリカに渡り、英語も話せて、学校にも通って、生活の根を下ろして・・・と思っていたら実は不法移民だったという厳しい現実。しかしそれは子供たちのせいではない。親の都合で知らないうちに厄介な状況に追い込まれてしまったのだから。そんな彼らに市民権を取得させようと学校の教師や弁護士も尽力するが、それには“法律の壁”を乗り越えなければならない。「学校の成績はトップクラス」「性格も良く聡明」そんな好人物でも法律の前では無力に等しい。ニュートン監督は登場人物の性格や背景を丁寧に描くことで、人間の温かさと法律の難しさの対比を鮮やかに浮かび上がらせている。法律の具体的な内容も映画のなかで示されないことも、見えない壁の大きさを痛感する。
911以降、アメリカでの移民対応は厳しさを増しているが、元祖・移民国家でのこの有様に暗澹たる気持ちになる。ただ、この問題は日本でも起こっていること。対岸の火事ではないことを肝に銘じたい。


第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/

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