92歳のパリジェンヌ

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

92歳のパリジェンヌmain2002年、リオネル・ジョスパン仏元首相の母ミレイユ・ジョスパンが、自らの人生を終える日を決め、それを実行。ミレイユの決断がフランス社会に大きな波紋を投げかけた。彼女の娘で作家のノエル・シャトレは母の決断を綴った小説「最期の教え」を発表、以来10年、映画化のオファーが絶えなかったものの、ノエルは全て断っていた。だがパスカル・プザドゥー監督の熱意に「時が来た」と快諾。映画化の運びとなった。
プザトゥー監督は、「2か月後に逝きます」と宣言した92歳のマドレーヌ(マルト・ヴィラロンガ)の確固たる決意と、それを受け止める娘ディアーヌ(サンドリーヌ・ボネール)の葛藤を軸に、通常とは異なるかたちの死と向き合う家族の物語を感動的に紡ぎあげた。今年のフランス映画祭で観客賞を受賞。

クロスレビュー

藤澤貞彦/誰にでも起こる度:★★★★☆

シャンソン「そして今は」♪夜は何でいつも訪れるのだ…を、入院している2人の高齢者が歌い出す。「一人でできなくなったことリスト」のノートがどんどん増えていく。このような場面を見ていると、年を取ることが不安になるし、老母マドレーヌの死にたいという気持ちもよくわかる。年を取るとは、世界が小さくなること。ただ個人的には、人の役に立つうちは、まだ命が勿体ないと感じてしまう。社会運動家として活躍していた人生だったからこそ、彼女には辛かったのかもしれないが。そもそもどこまで生きれば、人の尊厳が守られるか。それは個人差もあり、線引きは難しい。同時に、送る側の気持ちも胸に迫る。どうしても受け入れられない息子と、何とか受け入れられた娘。それは結局、どこまで本人に寄り添えたかどうかの違いに帰するのかもしれない。果たして、自分は寄り添うことができるのだろうか。どちらの側に立っても、決して他人事ではない話である。

富田優子/母と娘の絆に揺さぶられる度:★★★☆☆

今のご時世、長生きしても自分一人では身の回りのことができなくなり、周囲の人々に迷惑をかけてしまうことを案ずる人のほうが多いように思う。本作のマドレーヌはそうなる前にこの世を去ることを決意するのだが、とはいえ家族としては「はいはい、そうですか」と簡単に受け入れられるものではない。これはフランスだけではなく高齢化社会に突入した日本でも同様に、いつ誰が直面してもおかしくない問題だ。だからこそマドレーヌの決意も分かるし、ディアーヌの葛藤と恐怖も他人事には思えない。ただ本作はマドレーヌの決断を賛美するものでも批判するものでもない。家族の物語として登場人物の心情を丁寧に描くことに徹している。そのことにより、尊厳死が認められない社会に対して「自分が決める最期」の問題提起を促している向きもあるが、むしろそれよりも、母と娘の互いにとっての存在価値に、二人の絆に心を揺さぶられた。


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10月29日(土)シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

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