湯を沸かすほどの熱い愛

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

yu_main宮沢りえ他、豪華キャストの心を沸かしたオリジナル脚本
脚本を手がけたのは『チチを撮りに』(12)が、ベルリン国際映画祭他、国内外10を超える映画祭で絶賛された中野量太監督。その脚本に「心が沸かされた」と出演を決めたのは、名実ともに日本を代表する女優となった宮沢りえ。会う人すべてを包みこむ優しさと強さを持ちながら、人間味溢れる普通の“お母ちゃん”という双葉役を、その演技力と熱量で見事にスクリーンに焼きつける。

銭湯「幸(さち)の湯」を営む幸野家。しかし、父が1年前にふらっと出奔(しゅっぽん)し銭湯は休業状態。母・双葉は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら、娘を育てていた。そんなある日、突然、「余命わずか」という宣告を受ける。その日から彼女は、「絶対にやっておくべきこと」を決め、実行していく。その母の行動は、家族からすべての秘密を取り払うことになり、彼らはぶつかり合いながらもより強い絆で結びついていく。そして家族は、究極の愛を込めて母を葬(おく)ることを決意する。

【クロスレビュー】

鈴木こより/多くの驚きに満ちた熱〜い作品度:★★★★★

宮沢りえがこんなにも懐の深いオカンを演じる女優になったのか、と同世代の筆者にとっては感慨深い。母親というよりみんなのオカンというイメージで、孤独な人の心に寄り添い人と人とを繋いでいく。その愛は温かいというナマ優しいものではなく、熱い。信念を曲げることなく厳しさもみせるが、その言動には想像を超える訳があり、それが明かされるたびに驚きと感動で胸が熱くなる。またそんな彼女に呼応していく家族もいい。ダメ夫役のオダギリジョーがふっと力の抜けるユーモラスな空気を生み出し、杉咲花も朝ドラでみせていた爽やかな表情とは違う、不安気で繊細な思春期の娘を好演。とくにブラデビューのシーンは大胆で、エモーショナルで、ひどく心揺さぶられてしまった。多くの驚きに満ちた熱〜い作品。

富田優子/母親の“熱い愛”に湯あたりする度:★★★★★

母親(宮沢)の好きな色は赤で、娘(杉咲)の好きな色は水色。母と娘のやりとりを「ほおほお」と聞いていたら、二人を赤は炎、水色は水とたとえれば、炎は水を熱することができるということになるではないか。母の愛は姿かたちは変われども、娘に生きる力を与え、熱く包み込むという、ものの見事にラストシーンに昇華されており、中野監督の巧みな脚本に「そうきたかーー!」と試写室で叫びたい衝動に駆られた。この点に限らず、何気ない会話やちょっとした出来事がことごとく回収されていく心地よさと言ったらない。末期がん・余命ものという題材であることもあり、涙腺決壊ポイントはあるのだが、それは決して単なるセンチメンタルなお涙頂戴ではない。死ぬことと生きることの運命に果敢に挑む女性たちの心意気に強く揺さぶられてのこと。ココロもカラダも涙まで熱くなる。まったくもって熱い愛に湯あたりしそうな映画だ。

10月29日(土)新宿バルト9他全国ロードショー


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(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

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