【スウェーデン映画祭】ストップ・ウェディング
「映画は汽車で始まった」という言葉があるように、列車の中で恋が芽生えるという題材自体は、映画史の中でも古典中の古典とも言うべきものである。これを長編第1作目に選んだところに、祖父が地方の映画館で映写技師として働いており、なるほどドラゼン・クーリャニン監督が、幼い頃より映画に親しんでいたというのが感じられる。
それにしても本作は大胆な映画である。過去には、変形バーシーョンとして、別れたはずの2人が、飛行機の中で隣合わせになり、寄りを戻すという作品もあるにはあった。(『恋のときめき乱気流』)しかし、列車の同じコンパートメントで偶然出会った男女が、会話をするうちに実は同じ結婚式に向かう途中であり、結婚式を阻止したいという同じ目的を持っていたなどという、およそロマンチックとは程遠い暗い設定は今まで記憶にない。列車を舞台にしているというのに、コンパートメントの外にほとんど出ないというのも、冒険であるのだが、南スウェーデン、マルメからストックホルムまで、列車が目的地に到着するまでの約5 時間で撮影されたということにも、驚いてしまう。80年生まれ、まだ若い監督だが、映画のことを熟知している。
映画は、コンパートメントでの2人の出逢いから、列車が目的地に到着し別れた後までを、第1章から8章まで章を分けて描いている。♪招かれもしないのに突然現れるなんて嫌なんだけれど・・・アデルの「サムワン・ライク・ユー」ではないけれど、振られた者の未練は、古今東西変わらない。本作の場合、振られた男フィリップのほうが、まさに招かれてもいないのに『卒業』のような逆転劇を夢見て結婚式に参加しようとしている。彼女を取り戻す方法が、某イギリス映画のロマンチック・コメディの一場面を真似して、というのがいじらしい。逆に、振られた女アマンダは、結婚式には招かれている。そこに、元カレの身勝手さがあるため、彼女が結婚式をぶち壊しに行きたくなる気持ちも、理解できる。
同じ目的でも、実は2人のその方法は、片方は懐柔策を取り、片方は威圧策を取ろうとしており、パズルのピースのような関係にある。もし、これが2人とも結婚式をぶち壊してやろうというタイプであったなら、2人で大いに盛り上がり、その後の展開は滅茶苦茶になってしまっただろうし、もし反対に2人とも、復縁を夢見て出かけていたとしたら、結婚式で2人は恥をかき、ますます殻に閉じこもることになってしまったことだろう。その辺の割り振りが絶妙である。もっと言えば、振られた者の心の内のせめぎ合いが2人に割り振られたとも考えられるのではなかろうか。すなわちこの作品は、内なる心の葛藤を、失恋の失望、怒りの感情から始まりそれが形を変え癒されていく過程を、表現したものとも言える。列車のコンパートメントは、心の内なる葛藤そのものであり、列車の流れゆく風景、終始聴こえ続けるガタゴトという車輪の音は、時間の経過を象徴しているのである。いわば、これは失恋した人たちに捧げる、立ち直りの道筋を示した8章の列車旅なのだ。
さて、日常の中で出逢ったとしても、およそ惹かれあうことがなさそうなこの2人、その恋の行方はどうなるのか。ただひとつ言えることは、会話の中に出てくる結婚式を迎えたご両人は、そもそも、列車の中の2人には合わない相手だということである。人間どういうわけか、合わない相手に惹かれてしまうことが、多々ある。その逆に相性がいいのに、身近にいるのに、それと気が付かずに通り過ごしてしまうことも少なからずある。この2人は後者のような気がするのだが、ご覧になった方は、どう感じられましたでしょうか。
【スウェーデン映画祭 2016開催概要】
上映時間等詳細は公式サイトでご確認下さい。
■開催期間:2016年9月17日(土)〜9月23日(金)
■場所:ユーロスペース(渋谷区円山町1−5)
■主催:スウェーデン映画祭実行委員会
■公式WEBサイト:http://sff-web.jp/
【ご注意】
前売り券は、全ての作品共通の鑑賞券となりますので、前売り券をお持ちの方は、ご来場当日に入場整理券(番号)への引き換えが必要となります。
入場整理券は、当日の午前10時30分から劇場窓口にて引き換えいたします。
前売り券の有無や購入日は入場整理番号には影響いたしません。
※前売り券は3回券のみの販売になります。また、上映日時や座席の指定はできません。
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