スウェーデン映画祭2016上映作品ガイド
今年も、9/17(土)~9/23(金)に、渋谷ユーロスペースにて、“スウェーデン映画祭 2016”が開催されます。スウェーデンのアカデミー賞にあたるゴールデン・ビートル賞受賞作品上映の他、イングリッド・バーグマン出演作品の回顧上映、スウェーデンの若手作家の話題の新作全11本が上映されます。
ゴールデン・ビートル賞特集
ゴールデン・ビートル賞とは、毎年スウェーデン映画協会が制定するスウェーデン映画の最高賞。いわば、スウェーデンのアカデミー賞である。しかしながら、その年のスウェーデン映画界を代表する作品であるというのに、日本ではなかなか劇場公開されないというのが、残念な現実である。今回は劇場公開作『フレンチアルプスで起きたこと』を含めた、直近の3本の作品賞受賞作品が、上映される。
『波紋』
マグヌス・フォン・ホーン監督は、短編時代にも、友達を殺してしまったティーンエイジャーの男の子2人が、警察の心理学者に助けられながら、その罪の大きさを自覚していくドラマ『Echo』(08)や、学校でいじめられる16歳の少年たちを描いた『Utan snö』(11)など、ティーンエイジャーの犯罪、暴力、孤独、苦悩を描いている。初めての長編監督作品となる本作は、ガールフレンド殺害の罪で服役していた17 歳の少年の出所後を描いているという点で、『Echo』のその後の物語的な意味合いも持っているようだ。2016ゴールデン・ビートル賞 作品賞、監督賞、助演男優賞(Mats Blomgren)
監督:マグヌス・フォン・ホーン
2015年/102分/上映素材:Blu-ray
(原題)Efterskalv / 英題)The Here After
出演:ウルリック・マンター、Mats Mats
『フレンチアルプスで起きたこと』
高級スキーリゾートに一家揃って訪れた家族。仲が良さそうに見えた彼らだったが、昼食時、雪崩がテラスに迫ってきた時、夫が家族を置いて一人逃げ出したことから、妻が不信感を持ってしまう。咄嗟の時、人の行動にその人の性根が見えるとはいうけれど、妻だって、その場を動けなくなってしまったというのが本当のところとも言えるのだが…。リューベン・オストルンド監督は、『プレイ』に続く本作でも観客を挑発し、観終わった後、男の立場、女の立場で話が盛り上がること請け合いの作品となっている。
2015 ゴールデン・ビートル賞 作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、編集賞、助演男優賞(クリストファー・ヒヴュ)
2014 カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門 審査員賞
2015 アカデミー賞外国語映画賞スウェーデン代表
監督:リューベン・オストルンド
2014年/118分/上映素材:DCP
原題)Turist / 英題)Force Majeure
出演: ヨハネス・バー・クンケ、 リーサ・ローヴェン・コングスリ、 クリストファー・ヒヴュ、 クララ・ヴェッテルグレン、ヴィンセント・ヴェッテルグレン
『同窓会/アンナの場合』
実際には、同窓会の招待状が届かなかった監督が、スピーチの原稿を作り、その場で発表していたら、どうなっていたのだろうという発想から出来た作品。第1章では、撮影のために役者を雇って演じさせた架空の同窓会の模様を描き、第2章では、それを実際の同級生に見せるという構成を取ったユニークな作品。昨年の映画祭に続いてのアンコール上映。
2014 ゴールデン・ビートル賞 作品賞、脚本賞
2013 ベネチア国際映画祭 国際映画批評家連盟賞
※映画と。過去記事⇒【スウェーデン映画祭】同窓会/アンナの場合
同窓会に潜む闇~不安な気持ちを掻き立てられる心理劇
監督:アンナ・オデル
2013 年/89 分/上映素材:Blu-ray
原題)Återträffen / 英題)The Reunion
出演:Anna Odell,Anders Berg
マスターピース!イングリッド・バーグマン選
2015年、生誕100年を迎え、イングリッド・バーグマンの写真を使ったポスターが、カンヌ映画祭の会場のあちらこちらに溢れていたことは、まだ記憶に新しい。それに遅れこと1年、そのカンヌで上映されたイングリッド・バーグマン生誕100周年記念ドキュメンタリー『イングリッド・バーグマン~愛に生きた女優~』が現在渋谷ル・シネマにて公開中である。それに合わせて、スウェーデン映画祭でも、彼女の回顧上映が行われる。デビュー作品、ハリウッドデビューのきっかけとなった作品、最後の作品をスクリーンで、いっぺんに観ることができるこの贅沢。貴重な機会である。『イングリッド・バーグマン~愛に生きた女優~』と合わせて観てみたい。
『ムンクブローの伯爵』
イングリッド・バーグマンの記念すべきデビュー作。ギャングの一味の青年に惚れられる、安ホテルのメイドの役。タイトルの序列では7番目と小さな役ではあるが、「彼女は美しく、彫刻のような顔立ちの娘だ」と、ストックホルムの新聞でいち早く注目された作品。まだ19歳のバーグマンの初々しいこと。瑞々しいこと。2作目『波濤』で早くもヒロインの座を射止めたことにも頷ける。
監督:シグルド・ヴァレーン、エドヴィン・アドルフソン
1935年/88分/上映素材:35mm
原題)Munkbrogreven / 英題)The Count of the Old Town
出演: イングリッド・バーグマン、バンデマール・ダールクビィスト、シーグルド・ワーレーン
『間奏曲』
ピアノの家庭教師をしていたピアニストのアニタは、有名なバイオリニストのホルガーにその才能を見染められる。やがて二人は恋に落ちるのだが、彼には妻子がいて、彼女は恋に身を焦がしながらも、思い悩むのだった。「この映画によってハリウッド女優への道を運命づけられた」(ヴァラエティ)と言われている。実際にこの作品は、38年、デビッド・O・セルズニック(『風と共に去りぬ』のプロデューサー)の目に留まる。「刺激的な美しさと新鮮な純真さのコンビネーションの取れた女優」と彼はバーグマンに惚れ込み、7年契約と『間奏曲』のリメイクを申し出る。その作品こそが、ハリウッド第1作『別離』(39年)となるのだった。
監督:グスタフ・モランデル
1936年/88分/上映素材:35mm
原題)Intermezzo / 英題)Intermezzo
出演: イングリッド・バーグマン 、ヨースタ・エックマン、インガ・ティートブラッド
『秋のソナタ』
イングリッド・バーグマン最後の作品にして、スウェーデンが生んだ映画界の巨人、2人のベルイマン(バーグマンはベルイマンの英語読み)が初めてタッグを組んだ作品。娘役には、リヴ・ウルマン。さらに共演の名優グンナール・ビョルンストランドは、かつてバーグマンが王立演劇学校で一緒に学んだクラスメイトということで、彼女の引退には、これ以上ない花道となっている。バーグマンの役は、国際的に活躍したピアニストで、特に素人の娘が弾くピアノの間違いを、正してしまわずにはいられないというプロ意識などは、彼女自身の姿と重なってくる部分もある。「この女性は人生の最後の日まで演技しつづけた。素晴らしい女優ここに眠る」と墓石に刻んでほしいと語っていたバーグマン。しかし、同時にいつも家族を気遣っていた彼女のこと、実娘のイザベラ・ロッセリーニとの間には、本作の母娘のような愛憎劇というのは、なかったようだ。
監督:イングマール・ベルイマン
1978年/92分/上映素材:DCP
原題)Höstsonaten / 英題)Autumn Sonata
出演:イングリッド・バーグマン、リヴ・ウルマン、レナ・ナイマン、グンナール・ビョルンストランド
コンテンポラリー・スウェディッシュ・シネマ
『ビスカン・ミラクル』以外の4作品は、すべて長編監督作第1回目という、若い才能のバラエティに富んだ作品が並んでいる。スウェーデンの今、スウェーデン映画のこれからが、ここから見えてくるかも。
『ヤング・ソフィー・ベル』
高校卒業後、親友のソフィーとアリスはベルリンで暮らす約束をしていた。ここから自分たちの人生は始まる…しかし、アリスは突然ひとり旅立ち、ソフィーの夢は打ち砕かれる。彼女に何があったのか。ソフィーは、答を見つけるため、アリスの辿った道を求めてベルリンに赴くのだが、それは彼女にとって、自分自身の目を開き、人生を変える旅だった。
両親の留守を狙って2人だけの時間を過ごす計画を立てた10代の恋人たちだったが、期待していたものとは違うものになってしまう。そんな女の子の複雑な思いを描いた作品『Myskväll』(07年)など3本の短編映画を撮っていたアマンダ・アドルフソン監督。しかしその後は、テレビの世界で助監督の仕事をするしかない日々が続いていたのだが、ストックホルム映画祭の女性監督支援プロジェクトで、企画が最優秀賞を受賞。映画祭の出資を受け、長編映画第1作となったのが、本作である。
監督:アマンダ・アドルフソン
2014年/85分/上映素材:Blu-rayl
原題)Unga Sophie Bell / 英題)Young Sophie Bell
『ナイス・ピープル』
スウェーデンのボレンゲ市では、ここ数年の間に、3000人ものソマリア人が内戦から逃れてやって来ており、彼らと地元住民とのトラブルが絶えなかった。そんな中、地元の企業家のパトリック・アンデションは、アイスホッケーの起源とも言われる氷上競技バンディの、ソマリア人チームを作り、それを支援することによって、問題の解決を図ろうとする。バンディ競技のスター選手がコーチを引き受け、ロシアのイルクーツクで行われる世界選手権に彼らを出場させるという野望さえもって、彼らをスケートの基礎から指導するのだったが、その前にはクリアしなければならない問題が山積みになっていた…。主にテレビのドキュメンタリー番組でもコンビを組んでいたカリン・アヴ・クリントベルグとアンデシュ・ヘルゲソンが共同監督した、ドキュメンタリー映画である。
監督:カリン・アヴ・クリントベルグ/アンデシュ・ヘルゲソン
2015年/96分/上映素材:Blu-ray
原題)Filip & Fredrik presenterar TREVLIGT FOLK / 英題)Nice People
『ストップ・ウェディング』
南スウェーデン、マルメからストックホルムまでの列車のコンパートメントで偶然出会った男女。会話をするうちに、実は2人が同じ結婚式に向かう途中であり、結婚式を阻止したいという同じ目的を持っていたことが分かる。列車という狭い空間の中で移り変わっていく、2人の心を描いたこの作品は、列車が目的地に到着するまでの約5 時間で撮影されたという。本作のドラゼン・クーリャニン監督は、1980年ボスニア生まれ。彼の祖父が地方の映画館で映写技師として働いていた影響からか、彼は若いころから映画製作の面白さに目覚め、15歳の時には、すでに多数の短編映画を撮っていたという。本作は、そんな彼の長編デビュー作となる。
監督:ドラゼン・クーリャニン
2014年/72分/上映素材:Blu-ray
原題)Hur man stoppar ett bröllop / 英題)How to Stop a Wedding
出演:Lina Sundén,Christian Ehrnstén
『ビスカン・ミラクル』
引越し業のビャーネとマーリン夫妻の会社はいつも火の車。しかし、彼は父親と仲たがいをしていて、20年間も会話を交わしていない。どうにもならなくなったマーリンは、会社の借金の保証人になってもらうため、義父に会いに行くのだった。ユンガ川沿いの町ビスカンの風景が素晴らしい。ゆったりと流れる川、川の両側に別れて住む父親と息子を隔てている鉄骨の橋、小さな街並みと、ローカル列車。コンテンポラリー・スウェディッシュ・シネマ特集の中では、唯一ベテランの撮影監督であり、映画監督のヨン・O・オルソンの作品。主演のビャーネには『太陽の誘い』(98)『アフター・ウェディング』(06)のロルフ・ラスゴード、彼の父親には『刑事マルティン・ベック』(76)、『ミレニアム ドラゴンタトゥーの女』(09)のイングヴァル・ヒルドヴァルと、海外にも知られる名優たちが、絶妙なアンサンブルを生みだしている。
監督:ヨン・O・オルソン
2015年/106分/上映素材:Blu-ray
原題)Miraklet i Viskan / 英題)Viskan Miracles
出演:ロルフ・ラスゴード,Lia Boyse,イングヴァル・ヒルドヴァル
『モダン・プロジェクト』
(以下公式サイトより転載)
「心理学専攻の学生サラとシモン。先進諸国で人々を蝕む孤独感の原因を突き止めた彼らは、検証のために人里離れた一軒家で若者グループと共同生活を始める。当初は純粋な学問的実験だったが、シモンに権力欲が芽生えるとグループ内に歪みが生じ始める。集団における人間の心理をアイロニックに描く。監督と主演のふたりから成る映像制作ユニットÖGAT の長編第一作。演劇特有の手法を取り入れた斬新な映像表現が注目を集めている。」
監督:アントン・カルロート
2016年/82分/上映素材:Blu-ray
原題)Det moderna projektet / 英題)The Modern Project
出演:Jonathan Silé,Ylva Olaison,Eric Stern,Sally Palmqvist Procopé,Sigmund Hovind
【スウェーデン映画祭 2016開催概要】
上映時間等詳細は公式サイトでご確認下さい。
■開催期間:2016年9月17日(土)〜9月23日(金)
■場所:ユーロスペース(渋谷区円山町1−5)
■主催:スウェーデン映画祭実行委員会
■公式WEBサイト:http://sff-web.jp/
■チケット:チケットぴあにて前売り券発売中!
【ご注意】
前売り券は、全ての作品共通の鑑賞券となりますので、前売り券をお持ちの方は、ご来場当日に入場整理券(番号)への引き換えが必要となります。
入場整理券は、当日の午前10時30分から劇場窓口にて引き換えいたします。
前売り券の有無や購入日は入場整理番号には影響いたしません。
※前売り券は3回券のみの販売になります。また、上映日時や座席の指定はできません。
※上映開始10分前より整理番号順にてご入場いただきます。
※満席になりますと、前売り券をお持ちでもご入場いただけませんのでご注意ください。