『ティエリー・トグルドーの憂鬱』ヴァンサン・ランドンさん

主人公は度の過ぎたグローバル化や社会の不正に“Non”を突きつけたヒーロー

サブ――その動きとはヴァンサンさんご自身で考えるのですか、それとも監督など作品の関係者とのディスカッションから生まれるものなのでしょうか?

VL:私自身で考えています。

――スーパーやハローワークの場面で登場する人たちはプロの俳優ではなく、実際にそこで勤務している人たちが演じているとのことですが、いわゆるノンプロの人たちとの共演で印象的なことがあれば教えてください。

VL:特に大変なことはなくて、とても新鮮な経験でした。彼らの(演技に対する)真剣さには刺激を受けましたし、彼らの出演は物語にとても良いハーモニーをもたらしてくれました。

――本作のラストはティエリーに対して特に感傷的にならず、彼の姿を淡々と捉えることに終始しています。あのラストの感じ方は人によって異なると思います。ただ私個人としてはあの決断によって、彼はより難しい状況に置かれたのではないかと感じたのですが・・・。

VL:その点はティエリーもよく分かっていたと思います。それを踏まえてのあのラストだったのですが、あのシーンは本作の核心と言うべき極めて重要なシーンで、ステファヌ・ブリゼ監督ともよく話し合いました。確かにいろいろな決着のつけ方はあったはずですが、あのラストこそ観客の共感を得られると考えました。大きな代償を払ったとしても、ティエリーなりの精一杯の勇気を見せているのです。

VL4<取材後記>
取材中に「複雑になりすぎた現代社会において厳しい事態に直面し決断を迫られたとき、私たちに課せられているのはどうすれば最悪の事態を避けられるのかを考えること」とヴァンサンさんがおっしゃったのだが、この言葉とティエリーの最後の決断を重ねると、ティエリーが避けたかった最悪の事態とは何を指すか、彼は何を選んだのかが浮かび上がってきた。う~む、深い。ヴァンサンさんはどんな質問に対しても基本的に強面の表情をあまり崩さず眼光鋭くて、地雷を踏んだかと焦ったが、真摯に答えて下さり何だかんだ言っても優しいムッシュウだった。しかしインタビュー後の写真撮影で「こっちがいい」となぜかホワイトの壁や窓よりも木目調の壁をバックにすることを指定。心のなかで「なぜそっち??」と思いながらも何とか終了させました。本当はバックが白い壁のほうが良かったんだけど(愚痴)。

<プロフィール>
ヴァンサン・ランドン Vincent Lindon
1959年7月15日生まれ、フランス、オー・デ・セーヌ出身。「Le Faucon」(83)で映画デビュー。主な出演作に『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(86)、『女と男の危機』(92)、『パパラッチ』(98、脚本も担当)、『すべて彼女のために』(08)、『君を想って海をゆく』(09)、『母の身終い』(12)、『友よ、さらばと言おう』(14)など。次回作「Rodin」(17)ではタイトルロールの彫刻家オーギュスト・ロダンを演じる。


© 2015 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA.
第68回カンヌ国際映画祭男優賞受賞
8月27日(土)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー

1 2

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)