中国の映画プロデューサー王彧(ワン・ユー)さん

「プロデューサーと脚本家が足りない」―ベルリン銀熊賞『長江図』プロデューサーが明かす、バブルの中国映画業界の実態

—『長江図』の製作過程で、資金繰り以外で苦労された点は何ですか?

:やはり船ですね。長江は川幅がまちまちです。1つのシーンを撮るにも、1回でOKにならなければ、Uターンできる広いところまで一度出て、それから撮影地点に戻ってこなければいけません。ものすごく時間がかかりましたね。他の船も運航しているので、妨げにならないよう、航路を譲る必要もありました。長江は天気の変化も激しく、毎日様子が変わるのも厄介です。撮影用の船の後ろに、スタッフ・キャスト用の船がもう1隻追走していて、みんなそこで生活していました。ホテルに泊まることができず、とてもハードな撮影でしたね。

『長江図』 2016年/中国/116分 監督:ヤン・チャオ 出演:チン・ハオ、シン・ジーレイ  (C)Ray International (Beijing) LTD.

『長江図』
2016年/中国/116分
監督:ヤン・チャオ
出演:チン・ハオ、シン・ジーレイ 
(C)Ray International (Beijing) LTD.

■投機的な資本が流れ込み、異常な状況を生んでいる

—市場がないといわれているアート系映画のために多額の資金を集め、最良の形で完成させる。そんな王さんの仕事を支えている原動力は何なのでしょうか?

:アート系映画が稼げないわけではないんです。ただ、派手な娯楽作品ほど利益は多くないというだけ。過去に手がけた賈樟柯の作品をはじめ、この『長江図』も海外の国々で配給されます。また、中国国内でも、インターネットの動画チャンネル等で配信すれば利益は得られますし、テレビの映画チャンネルなど他にも販売ルートがある。大きく稼ぐことはできませんが、プロデューサーとして赤字を出すつもりはありません。
そもそも、私は大きく稼ぎたいとは思いません。ただ、良い映画が作りたい。もちろん、商業主義的な娯楽作品も手がけますが、それはビジネスです。ビジネスと、映画。そこは割り切って考えています。

—最近の中国映画は、爆発的に興行収入が伸びてはいますが、コメディや青春映画、ファンタジーの似たり寄ったりの作品ばかりで、観客もそろそろ食傷気味ではないかという印象を受けます。

:今の中国映画の問題は、ジャンルが少なすぎることです。単一的で、おっしゃるとおり、同じネタの繰り返しです。以前の中国は映画館のスクリーン数が少なく、ハリウッド映画など確実に稼げる映画にしぼって上映していましが、現在は1日1スクリーンのペースでスクリーン数が増えています。1日のうちでも時間帯を変えて、ターゲットの異なる作品をいくつか上映するなど、さまざまな作品を上映できる環境が整いつつある。これからはありとあらゆるジャンルの作品が撮られるべきだと思っています。

—『長江図』上映後の舞台挨拶で、昨年中国で製作された映画は686本に上ったのに、公開されたのはたった200本程度だとお話しされていました。そんなリスクを冒しても、なぜみな映画に投資したがるのでしょうか?

:ここ3~5年の現象ですが、中国経済全体は成長しているものの、これまで投機目的の資本が流れ込んでいた不動産や株などが暴落し、商売人たちは有り余るお金のやり場に困りました。そんな時に中国映画の興行が良くなり始めたので、門外漢なのに映画を作りたがる会社が増えたんですね。不動産への投資と比べたら、少ない額でトライすることができますから。投資してみて、失敗すればそれっきり。非常にリスクが大きいです。映画には良好な循環が必要なのに、失敗した会社は二度と映画を作らなくなる。中国映画界には潤沢な資金があると言われていますが、その実態はバブルであって、投機的な資本が流れ込んで異常な状況を生んでいます。

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