中国の映画プロデューサー王彧(ワン・ユー)さん
王氏は、『プラットホーム』『長江哀歌(エレジー)』など長年にわたって賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督作品の製作に携わったほか、日中合作映画『鳳凰 わが愛』(07)をプロデュースするなど豊富な海外との合作経験を持つ。今年2月には、ベルリン国際映画祭にプロデュース作『長江図』を出品し、カメラマンの李屏賓(リー・ピンビン)氏が銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞。近年は北京国際映画祭の併設マーケットでディレクターを務めるなど、中国映画界に大きく寄与してきた。
そんな王氏が、『長江図』を携えて、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016に長編部門国際審査員として参加。苦労続きだった『長江図』撮影の裏側から、中国映画業界の現状や問題点、日本との合作の難しさなど、たっぷりお話をうかがった。
■デジタルで長江の魅力は撮りきれない!
—(インタビューは『長江図』上映のあと)『長江図』は幻想的で美しい映画ですが、今の中国では残念ながら大きな観客動員は見込めない作品ですよね。資金集めが難しかったと聞いています。
王彧氏(以下、王):『長江図』は、脚本を書き始めてから10年の歳月が経っています。クランクインから完成までは4年かかりました。4年もかかった最たる原因というのが、まさに資金集めに手こずったからです。私と楊超(ヤン・チャオ)監督は北京電影学院の同級生だったので、この映画の脚本は一番早い段階で読ませてもらって、気に入っていました。でも、このプロジェクトが動き始めた当初、私は生憎、アメリカとの合作映画の製作に入っていたので参加しなかったのです。でも、途中で撮影が立ちゆかなくなった楊監督から改めて相談され、参加することに決めました。
—資金は結局どうかき集めたのでしょうか?
王:初期の段階では、ロッテルダムや釜山(プサン)など、いくつかの海外映画祭から得た基金で撮影していました。私が参加してからは、友人達から募った出資でまかないました。もちろん、私自身も出資しました。エンドロールにたくさんの会社名がクレジットされているのをご覧になったでしょう? 現状、中国に本作のようなアート系映画の市場はありません。でも、撮影済みの素材でフッテージ映像を作って見せたところ、この映画の完成をサポートしたいと申し出てくれた人がたくさんいたんです。
—『長江図』はフィルム撮影ですよね。費用もかかるし、長江を航行しながら撮影するため輸送の手配も大変です。プロデューサーとして反対はしなかったのでしょうか?
王:『長江哀歌(エレジー)』を作った経験があったので、長江の影像というものが特別なものだと分かっていました。デジタルで撮ったのでは、長江の力強さ、同時に繊細さは映し出せません。そして、カメラマンはあの李屏賓です。フィルムを使って山水画のような画を撮ることができる人ですから、迷わずフィルムを選びました。
ただ、全体の8割はフィルムで撮っているのですが、編集中に気になって後で追加撮影した部分はデジタルなんです。なにぶん、クランクインから4年たっていますから、編集作業の頃には、フィルムを現像できる場所が中国国内になくなってしまったんです。
今回、SKIPシティで上映したのは2Kのデジタルデータに変換したバージョンでしたが、やはり2Kだと表しきれなかった部分が多い。二度手間になって余計にお金はかかるのですが、9月に中国で公開する時は、4Kでスキャンし直したバージョンを使う予定です。