【SKIP CITY IDCF】園田という種目
【SKIP CITY IDCF2016】長編コンペティション部門
僕の名前は園田。自主映画の監督をやっている。ついこの前、といっても僕にはもう遠い昔に思えるけれど、自主映画のコンテストでグランプリを取ったんだ。でもその直後、悪ノリで超ツマラナイことをやっちゃって、逮捕されたんだ。プロデビューまであと一息ってところだったのにね。今ようやく出所してきたところ。ナンチャッテじゃすまないよね。とりあえず、何かしなくては食べていけないので、コールセンターの仕事を見つけて、今は淡々と毎日を過ごしている。職場では評判いいんだ。おばさんたちまで、色目を使ってくるんだから。でもこっちはビクビク。いつバレるかって。だから極力無色でいようと心掛けているんだ。単純に明るくて、楽しい奴って思われていれば、きっと大丈夫だろうからね。そういうのは、僕は得意なんだ。でも飲み会には出ないことにしている。いつボロが出るかわからないものね。この間、久しぶりに学生時代からの演劇仲間の家に招待された。「園田を元気づけてやろう的な」会だって。一応こんな僕だって、仲間に合わす顔がないって思っている。だからちょっと緊張した。でも出来る限り明るく振る舞おうって思っていたんだ。園田は元気だよ的な、ね。それなのに…。
この作品では、園田という男は最後まで出てこない。顔もわからなければ、声もわからない。だからこの独白は、あくまでも筆者の想像である。3部構成になっていて、1部が「園田を元気づけてやろう的な」会、2部は園田が勤める会社の女子社員に巻き起こった「園田フィーバー」、3部はそれぞれの、帰結するところとなっている。
演劇仲間のアパートの部屋と会社の休憩室、この対比がとても面白い。簡素なテーブルと、パイプ椅子からなる会社の休憩室では、登場人物たちは、いつも同じ距離感を保っている。冴えない男性社員だけは、いつも端っこにいるが、他の女性社員の席の位置は時々変わる。隣あったり、向かいあったり。それでも椅子の位置が変わることはない。お互いに超えてはならないラインがそこにはあるように見える。そこでは、いない人の悪口が飛びだしたりする。人物が自由に出入りし、メンバー構成が常に変わるからだ。いわば、休憩室は開かれた空間と言える。一方、アパートの部屋は、酒類が置いてある小さなテーブルを中心にして、人物がさまざまな距離感で集っている。後ろを向いている者、トイレに行っている者、並んで座っている者などあり、それも固定的なものではない。会話の中で、興奮して相手をののしったりするなど、会話がストレートである。彼らは部屋を出たり入ったりすることはない。そこに居にくくなった時には、アパートの外へと退場するのみだ。ここは閉じられた空間であると言えよう。この違いが、そのまま園田を巡る人間関係の深浅を浮き彫りにしている。