【柳下美恵のピアノdeシネマ2016】 第5回『日曜日の人々』ゲスト今日マチ子さん

サイレント映画の一コマ、マンガの一コマ

マンガの世界、ピアノの世界

スクリーン・カラー柳下 「今日マチ子さんの作品は、最初の『センネン画法』から、日常なのだけれども、そこが不思議な空間になっているっていう感じがすごくしましたが」

今日 「『センネン画法』っていう作品は私のデビュー作で、カラーの1ページマンガなのですが、自分では、夢の世界っていうか、あまり現実に即していない感じがしています」

柳下 「私が思いだすのは、ラムネとかキャンディーとか、女の子っぽい感じのものなのですけれども、そういった普通の物が、今日さんのお話の中にいくと、夢の中というか、不思議な空間を作りだしているなって感じがしますね」

今日 「毎日毎日描いていたので、1日1回現実じゃない世界に飛ぶための練習みたいなことをしていたのが、『センネン画法』っていう1ページマンガなのですね」

柳下 「そういうのが『COCOON』とかに繋がっていくのですか」

今日 「『センネン画法』みたいなのしか描けないと思われていたので、ちゃんとストーリーがある、マンガ家らしい仕事もできますよという意味で、沖縄戦をモデルにしたマンガを描いたのです」

柳下 「小さい頃に、原爆のマンガを読んだことがあるのですけれども、被曝した後の子供が歌っているシーン、その1コマが目に焼きついちゃっていて。今日さんのマンガは、強烈なのだけれど、そんな風にはならないですね。私が歳を取ったということもあるのかもしれないですが、それでも小さい子が読むとやっぱりトラウマになるのかしら」

今日 「『COCOON』は、『裸足のゲン』がダメな人が読むみたいなことをよく言われたりしますね」

柳下 「サイレント映画のファンになってくださったということなので、こういうサイレント映画を観たいとか、こんな世界を描いてみたいとかってありますか」

今日 「『第七天国』とかは、70年代の少女マンガみたいな感じの作りですよね。小さくて可愛い女の子と格好良くて優しいイケメンっていうような組み合わせは、そのまんま大島弓子先生とかの絵柄が思い浮かぶなぁ、っていうふうに観ましたね」

柳下 「あれ実は、日本でもそこからヒントを得て、牛原虚彦っていう監督が、田中絹代と鈴木傳明というスポーツマンタイプの俳優さんを一緒にして、何作か作っているんですね」

柳下 「折角の機会ですので、会場からご質問とかありますか」

客席からの質問 「今日さんってお名前からして映画ファンなのかと思っていたのですが」

今日 「そうなんですよ。ただ、映画ファンの方からしたら、そんなの映画ファンって言わないって言われるかもしれないので、あんまり映画好きって言わないようにしているんです。『羅生門』の時の京マチ子さんがすごく好きで、ペンネームはそこから取っています。うっかり付けてすごく恥ずかしい思いをしています(笑)」

柳下 「じゃ、やっぱり対談しないとですね」

今日 「いゃ、うっかり付けたペンネームなものですから、申し訳なくて」

客席からの質問 「お二人の創作意欲の起源というか、こういうことがあったらピアノが弾きたくなるとか、マンガが描きたくなるとか、そういうことってありますか」

今日 「描くことが普通になり過ぎていて、描かないと、なんか今日トイレしか行っていないみたいになっちゃうんですね(笑)ただ、これは絶対にネタにしなきゃっていうのがあると、大きな企画のほうに持って行ったりもしますけれども。やっぱり自然に手が動くとか、そういう感じじゃないですかね。柳下さんのピアノもそうなんじゃないですか」

柳下 「私は全然違いますね。映画と一緒じゃないと弾かないんです。クラシックをやっていたのですけれども、楽譜で弾くということが凄く苦手で、先生に、どうしてあなたはこれができないのかと、いつも言われていました。なぜか映画に合わせて自分で音を出すというのは、好きということもあったので。起源はそんなところですね」

今日 「いつからそうなったのですか」

日曜日の柳下さん柳下 「気づいたのは、この仕事を選んだ時からなのですけれども。私は映画を好きになったのが遅くて、大学生の頃からなんです。社会人になってから、サイレント映画の伴奏が音楽と映画の接点になりそうと、やり始めたのです。最初は本当に手探り状態だったので、そんなに余裕はなかったのですけれども。でもやっぱり最初から、自分が空気のようなものになるというのを目標にしていたので、それが今ちょっと達成できている感じがします。本当に即興で弾くようになってからは、とにかく弾いて、弾いて、それが至福の時になっています」

今日 「サイレント映画の演奏をする人っていうのは、柳下さん以外にいらっしゃるのですか」

柳下 「日本でも最近出てきているのですが、私のようなスタンスって、欧米のスタイルなんですね。日本だとこれに弁士さんが付いて、語りが入ることが多いです。私みたいなスタイルなのは、多分、私が日本人で初めてなのですけれども、そういうのって環境がないとなかなか出来ないんですね。今ちょっと関西のほうで、アーカイブで弾いている方がいらっしゃいます。お金になっているかは別として、機会はすごくあるようです。世界に目を向けると、今月末に、毎年恒例のボローニャで復元映画祭というのがあるのですが、そこには世界から7、8人のピアニストが集まってきています」

最後に…

柳下「では最後に、今日さんの今後の仕事とか、何か告知したいこととかありましたらどうぞ。今すごくお忙しいと伺っていますが」

今日 「いや、忙しいですけれども、特に言うほどのものではないです。毎年マンガを描いて本を出してみたいな感じで、あんまり人前に出てこられる時がないんですね。今日は、半年ぶりくらいです。夜の渋谷なんて歩いたのはもう1年ぶりになりますね。でも久しぶりに歩いてみて、色々とイマジネーションをもらった感じがしますね」

柳下 「それがマンガになるといいですね。そうそう、あと猫を飼っていらっしゃるということで、そのお話も伺いたいなって思っていたのですよね」

今日 「猫が2匹いて『猫嬢ムーム』っていうマンガを描いたりしていますね。家にすごく高飛車な猫がいて、それを主人公にして描いています」

柳下 「私は、猫派じゃなくて、実は犬派なんです。猫ってやっぱりハイハイって、こっちが聞いてあげないとダメだって聞いたので。多分それができないのでしょうね」

今日 「どちらかというと、柳下さん自身が猫のような感じですものね(笑)」

柳下 「あー、そうなんですか(笑)だからどんどん人が離れていってしまうんですね(笑) 今日はありがとうございました」


※2月~7月の第3金曜日「柳下美恵のピアノdeシネマ」がUPLINKにて開催されます

第6回(最終回)は7月15日(金)19:30開場 20:00開演『バグダッドの盗賊』

監督:ラオール・ウォルシュ、主演:ダグラス・フェアバンクス。
フィルム映写はお馴染みのコガタ社さんです。
詳細はこちら⇒UPLINK 柳下美恵のピアノdeシネマ

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