【柳下美恵のピアノdeシネマ2016】 第5回『日曜日の人々』ゲスト今日マチ子さん

サイレント映画の一コマ、マンガの一コマ

 6月17日渋谷アップリンクにて、「柳下美恵のピアノdeシネマ2016」の5回目の公演が行われました。上映作品は『日曜日の人々』。上映の後に行われた柳下美恵さんと漫画家今日マチ子さんによるトークショーの模様をお送りします。サイレント映画と漫画のこと、『日曜日の人々』についての本音の感想など、興味深いお話が満載です。

【作品紹介】

『日曜日の人々』

(1930年/ドイツ/74分)

ポスター29年撮影。大恐慌の前夜、ナチス大躍進の前夜。日々の暮らしは大変だけれど日曜日には楽しみが…人々のささやかな幸せ。男女4人の日曜日のピクニック、好いたり好かれたり、嫉妬したりと、単純なのにハラハラする。若さ、日曜日、そして平和が何より素晴らしい。思えば、これはサイレント映画の時代、最後の輝き。壁に貼られたハリウッド・スタアのブロマイド、ハロルド・ロイドにグレタ・ガルボ。間もなく落ちぶれていくジョン・ギルバートの姿も。ローリング・トゥェンティーズはまもなく終わり、時代が大きく変わっていく。これは、そんな日曜日の黄昏の輝きのような映画。

映画は、本来描かれたその世界だけを楽しむべきものだが、この作品だけは、どうしてもその後に思いを馳せてしまう。写っていた人たちのその後。決して、私たちが歴史を知っているせいだけではない。作品がまるで世界の一瞬、人の生の一瞬を閉じ込めたかのようであり、輝いているからだ。レコード店の女性は、2011年101歳まで生きた。エキストラ女優の役の女性はユダヤ系、アメリカに移住し難を逃れた。反面タクシー運転手の役の人はその後の行方は知られていない。彼らにも色々な人生。まさにこの作品は、激動の時代前の幸せな一コマだったのだ。

【トークショー】

≪今日マチ子さんプロフィール≫
profile1漫画家。2004年より自身のブログではじめた1ページ漫画シリーズ『センネン画報』が口コミで評判となり人気を得る。雑誌連載作品に『みかこさん』『cocoon』『アノネ、』など多数あり。現在も複数の雑誌にて同時並行で連載中。2005年「ほぼ日マンガ大賞」入賞から始まり、2014年手塚治虫文化賞新生賞、2015年日本漫画家協会賞大賞(カーツーン部門)(『いちご戦争』)など受賞歴も多数。


今日マチ子さん、サイレント映画と出逢う

柳下美恵さん(以下柳下) 「お忙しい中来ていただいて本当にありがとうございます。私は「聖なる夜の上映会」というのを毎年12月に教会でやっているのですが、それに来られた今日さんがTwitterで感想などを呟いて下さっていまして、それがありがたくて、いつかお会いして、お話を伺いたいなって思っていました。今日さんは、セリフのないマンガを結構お描きになっているのですけれども、サイレント映画から影響を受けたりすることがあるのですか」

今日マチ子さん(以下今日) 「元々、私はサイレント映画に興味があったわけではなくて、「聖なる夜の上映会」に行ったのも、近代建築に興味があったからなのですね。本郷中央教会で「聖なる夜の上映会」というのをやっていて、その時なら中に入れますよっていうことで、誘っていただいたんです。そこで初めてサイレント映画に出会ったんですね。その時確か、古楽器もコラボレーションされていたかと思うのですが」

柳下 「2回目の『魔女』の時ですね。教会で『魔女』やっちゃったんですね(笑)」

今日 「内容もかなり際どい感じでしたものね(笑)」

柳下 「魔女についての考察みたいな感じの映画ですね。デンマークのベンヤミン・クリステンセン監督の作品で、監督も悪魔役で出ています」

今日 「その時、演奏付きのサイレント映画というのを初めて観て、すごくはまってしまって、後は柳下さんのホームページを見て、次の演奏会をチェックして行くということをやっていたんです」

柳下 「ありがとうございます」

今日 「それで、いつも不思議に思っているのですけれども、柳下さんの演奏っていうのはアドリブなんですか」

日曜日の柳下さん2

柳下美恵さん

柳下 「そうですね。今日の作品に関しては、DVD化する際に演奏を吹き込んでいるので、ちょっとしたテーマ曲も作ってはいるのですけれども、結局、そこの場面にその音楽をつけなかったんです。画面を見ながら表情を見ながら、心の機微やリズムを感じながら弾いている感じですね。画面が楽譜って言ってくれた先生がいて、それかなって思っています」

今日 「じゃあ、元になる楽譜とか特にないんですね」

柳下 「ないですね。もちろん存在しているものもあるのですけれども、とても少ないんです。以前、リリアン・ギッシュ主演の『散り行く花』を演奏した時、それには一応ピアノスコアが存在しているので使ってみたのですが、それをそのまま弾くと、物凄い速さで弾かなくてはならなくて、もしかしたらフィルムが切れているのか、速度が違うのかって思いました。それをそのとおりに弾くっていうのは、神技みたいな感じでしたね」

今日 「いつもどうやっているのかなと思っていたんですね。楽譜があるのかなって」

柳下 「もし楽譜があったとしても、音を入れるタイミングがすごく難しいので、それを完璧に弾くっていうのは、本当に神技だって思いますね」

ピアノ今日 「家でサイレント映画を観ると、音楽が入っていないので、すぐに眠くなっちゃうんですよね。柳下さんの演奏付きのサイレント映画っていうのに、完全に慣れ切ってしまっていて、ピアノがないと観られないという感じになっています」

柳下 「そういっていただけると、有難いです。どこにでも出張しますので言って下さい。私の場合は、音楽っていうよりは集中するための音なので、音だけ聴くとどうなのかなとは思うのですけれども」

今日 「それと、毎回お聞きしたかったのですが、映画のセレクトというのはどういう風にされているのですか」

柳下 「実はセレクトできるものは、すごく少なくて…その中から選んでいるんです。お借りするのに自分で払えるぐらいのものとか、フィルムに関しては、パブリック・ドメインになっている、私の所有しているものを使ったりしているのです」

今日 「大体ハズレ無しですね。特に『風』には本当に感動して、こんな映画に出会えて良かったなぁと思いましたね。柳下さんの上映会で色々な映画を知って、本当に良かったと思っています」

柳下 「『風』は永遠の少女と言われるアメリカの女優、リリアン・ギッシュが主演ですね。少女なのだけれどもすごい自分を持っている人。老いてからも、ずっと少女の心を持ち続けていた女優さんだったので、余計に気に入っていただけたのかなぁ。今日さんが書かれている少女にもちょっと通じるところがあるかもしれないですね。そういえば、気に入って下さった作品『第七天国』の女優さん、ジャネット・ゲイナーもちょっと少女っぽいところがありますよね。今日さんが、よく少女のマンガを書かれているのは、やっぱり少女というものに対しての思いとかがあるのですか」

今日 「そうですね。ただ、多分描いた当時は少女というものが描きたかったということだと思います。自分が歳を取ってくるに従って、また描くものも変わってきていたりはしています」

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