【柳下美恵のピアノdeシネマ2016】 第5回『日曜日の人々』ゲスト今日マチ子さん
女子2人『日曜日の人々』を語る
今日 「『日曜日の人々』は、本当に素人ならではの可愛さとかありましたね」
柳下 「一時期、戦争を題材にして描かれていた今日さんとしては、ナチスが台頭してくる前に撮られたベルリンの風景に、その影を捉えられたりしましたか」
今日 「感想としては、ものすごく胸キュンの映画だなって思いました。私はよく日常を描くために、戦争を背景として取り上げていたりするのですが、この映画を撮った当時は多分、まだナチスが台頭してくるという感じではなかったと思いますね。その後、結果的に悲しい時代に入ってしまったということがあるからこそ、それを知っている今の私たちが観て、ものすごく煌めきを感じるという、不思議な構造になっているのですよね」
柳下 「その時代の人が観たら、もしかしたらそれほどそういうものに目がいかなかったかもしれないですね。私は『日曜日の人々』っていうのは、視点を平等に色々な人に向けているなって思うのですね。5人の主役はいるのだけれども、その他の人にも、例えば絵ハガキに描かれた太った女性の絵から、それに良く似た海辺の普通の女性に姿にオーバーラップさせてみたりとか、主役の人たちが笑っている姿に、別の場所にいる学生たちが笑って遊んでいるところを重ねてスケッチしてみたりとか。メインのストーリーに並行して、周囲の人たちに目がいっているのですね。今日さんのマンガで時々白い人っていうのが出てくるのですが、これとはちょっと違った視点なのですか」
今日 「主人公から見て認識されていない人々っていうことで、白い人っていう表現をしていますね。だからちょっと悪意があるっていうか…『日曜日の人々』の視点とは違っています。普通は全部を平等にすると、中身が希薄になったりするものですけれども、この作品は逆にその部分がすごく面白いですね。突然ポートレートを撮っているところとか現れますよね。この瞬間、この人たちにはここしかないんだみたいなのを、まざまざと見せつけられてグッと来ますね」
柳下 「そうですね。出来上がった写真を見せるというような感覚で、映像が静止してしまうところが素晴らしいなって、いつも思うのですよ」
今日 「映像で観ているあの人たちは、今ではものすごく歳を取っていてしまっていたり、もしかしたらこの世にいないかもしれないとか考えてしまうと、すごく不思議な瞬間に思えますね。一瞬の幸せを切り取ったような感覚ですね」
柳下 「切り取るっていう意味では、今日さんのマンガの中で、例えば「センネン画報」などは、瞬間を切り取るっていうのがあるので、似ていると思うのですけれども」
今日 「ああ、確かにそうかもしれないですね。自分の場合は幸せな瞬間っていうのでなくて、不思議な瞬間だったりするのですけれども。ただ、私の場合は1枚のページではあるのですけれども、コマとしてバシっと決まっているという感じじゃないですね。もうちょっと流動的な感じで。この映画では、あのポートレートのところでバチッと止まるじゃないですか。それ故にその瞬間、すごい時間を感じるのですね」
柳下 「私も音を付ける時に、並べて付けているのですけれども、時々止めると、パッと画面に集中するという効果があるかなと思っています」
今日 「画面がずっと動いているから、そこだけ止まるとドキっとするんですよね」
柳下 「止まるというのは、難しいことではありますけど、監督の指示は仰がず、自分なりにやっています。本当に僭越なのですけれども(笑)」
今日 「それにしても『日曜日の人々』はマンガにすると、非常に難しいですね。日常系のマンガって、誰でも1回はチャレンジするのですが、なかなか上手くいかないんです。やっぱり平坦になってしまうのですね。平坦っていうのは自己満足みたいな感じになっちゃうということですけれども。『日曜日の人々』を観て感心したのは、本当に普通の1日なのに、ものすごく美しいんですね。私はあまり映画のことは詳しくないのですけれども、多分あらゆる技法が詰め込まれていて、ものすごく工夫を凝らしているからこそ、1本まるごと観られたのだろうなって、思うんですね」
柳下 「その後ハリウッドに渡った若い映画人たちが作っているので、色々なアイデアを出している感じがしますね。今日さんが『センネン画報』でしていたように、実験に近いところがあるかもしれないですね」
今日 「確かにアングルとか結構変わりますよね。それにしても、あのタクシー運転手の奥さんは何だったのでしょうね」
柳下 「そうそう。登場人物が5人いるのですけれども、その5人目が誰だったのかってよく言われて、あの人の存在がよくわからないって。でもあの人がいないと、結末にならないんですよね」
今日 「あのオチが面白いんですよね」
柳下 「彼女がベッドで寝ていると、1日の過ごし方っていう本が横に置いてあるのが写って、それもちょっとしたジョークになっているんですね」
今日 「根本的に、なんであの奥さんにあの旦那さんなのだろうって思うんですよ。モデルの奥さんに、あんまりイケてない旦那さんって組み合わせが(笑)」
柳下 「あー、そうですよね。でもそういう組み合わせは時々ありますよね。私はそういう時は、やっぱり求めるものが違うのかなって。美を求めるのが旦那さんで、それでなんだかわからないけれど、もっと何か違うものを求めるのが奥さんなのかなって思う時がありますね」
今日 「ベストカップル!」
柳下 「テレビドラマでは絶対にあり得ないのだけれど、そういう感じなのかもって理解をしていたんですね」
今日 「観るたびに、何でタクシー運転手の奥さんがモデルなんだろうって疑問に思っていたのです(笑)当時の流行りなのかしらとか、色々考えたりして」
柳下 「実は、もっと深いところがあるかのかな、わからないですけれど。色々な理由づけを勝手にしてしまって(笑)」