『カンパイ!世界が恋する日本酒』小西未来監督インタビュー

米国での経験を生かして、奥深い日本酒の魅力を世界へ発信

■“横道にそれる”インタビューでストーリー変更

ーー「結論ありきで作らない」というポリシーのうえで撮られたとうかがっています。でもそうすると、構成を考える上で結構時間がかかったのでは?

中央がフィリップ・ハーパーさん(『カンパイ!世界が恋する日本酒』より)

中央がフィリップ・ハーパーさん(『カンパイ!世界が恋する日本酒』より)

小西:編集ですごい時間かかりましたね。フッテージが大量になったので、編集で6ヵ月くらいかかりました。正解がないのでほんとに大変でした。

ーー素材を撮り終わった時点で、だいたいの落としどころはご自身の中にあったのですか?

小西:ヒントはありましたが、ちゃんとは決まってなかったです。こんなやり方を普通、テレビ局なんかでやったら、絶対クビになってる(笑)。テレビ取材などもよくやらせてもらいますが、台本がすべて決まってるわけですよ。それが一番効率の良いやり方なのは分かってるんです。だけどそうすると、ネットで調べた情報と同じものしか伝えられない部分もある。

ーー想定内の出来になるということですね。

小西:これは僕がインタビューの仕事で学んだことなんですけど、インタビューの時も、ちゃんと準備はするんだけど、ふと相手の言った一言が面白そうで、「そっちを掘ってみようかな?」って迷うんですよ。話がそれるのってリスクなんですよね。「残りの時間でこの質問をしたら、そこそこのインタビューはとれるだろう」という思いと、「横道にそれたら、こっちの質問はできなくなるかもしれないけれど、もっとすごい話があるかもしれない」という思い。そこで横道に飛び込んだ場合、たいていいい結果になるんですね。なので、まずはハーパーさん、久慈さん、ゴントナーさんにインタビューさせてもらって、面白そうな話題が出たら散々横道にそらせてもらって、できたインタビューをまずまとめていって、そこに映像を当てはめていったという感じですね。

ーーじゃあ、制作プロセスとしてはインタビューが最初だったんですね。

そうです。インタビューの時に、ハーパーさんが鈴木大介さんという方と師弟関係にあったという話を聞きました(鈴木さんは山形で祝い酒「磐城寿」等を作る鈴木酒造店の杜氏)。鈴木さんは東日本大震災で被災されて、(福島県浪江から山形県長井に移り)新しい土地で酒造りをしてらっしゃる人。ハーパーさんからその話を聞いたときに、この作品としては、震災の話まで盛り込むと、観る人に深刻に受け取られすぎるのではと悩んだんです。でも、次に久慈さんにインタビューしたら、今度は久慈さんがその鈴木さんと同級生であることがわかった。これはもう真っ向から撮らなきゃダメだと思って、鈴木さんに連絡を取り、被災地に連れて行ってもらったりしました。全然予定していなかったことをインタビューから掴んだことで、話を変えていくことになった部分ですね。

ーーライターとしての今までのご経験が、ドキュメンタリーを作るうえでも役立ってるんですね。

小西:そうですね。まず、インタビューもしなきゃならないし、素材は映像と文章で違いますが、例えば1200字で何かまとめなきゃいけないっていうのと同じですよね。映画は撮った映像を95分で構成していく中に、自分なりのこだわりとかがあったりする。ライターの仕事とそれは同じだと思います。
仮に僕が映画学校を出て、そのままこの映画を作っていたら、もうちょっと独りよがりというか、観客の視点に欠けたものなったと思うんです。幸か不幸かライター業に入ってしまって、映画が消費される方を手伝うことになった。だから、どういう映画がうけるのかとか、どうやって映画が売られていくのかとか、そういう面を見てきたことで、消費者側の立場が否応なしに分かったところがあるんですね。だから、ライターの経験は無駄じゃなかったと思いますね。

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