【フランス映画祭】めぐりあう日
【作品紹介】
北フランスの港町ダンケルク。産みの親を知らずに育った理学療法士のエリザは、自身の出生を知るために、息子ノエを連れてパリから引っ越して来る。だが、実母が匿名を望んでいるために、なかなか手がかりがつかめない。そんなある日、ノエが通う学校で働く中年女性アネットが、患者としてエリザの療法室にやって来る。2人は、治療を繰り返すうちに、不思議な親密感を覚えるようになるが…。
孤児となった9歳の少女が、韓国からフランスへ養子として旅立つまでを、繊細なタッチで描いた前作『冬の小鳥』は、自身の体験をもとにしていた。 本作はフランスを舞台に、再び自身の人生を重ねた待望の長編第二作。見えない糸に手繰り寄せられるように近づく母と娘――。運命の皮肉に胸を締めつけられるも、新たな人生の一歩を予感させるルコント監督渾身の作。
【クロスレビュー】
藤澤貞彦/自身を見つめる監督の勇気度:★★★★★
『冬の小鳥』で、孤児院からフランス人の里親に引き取られた自身の体験を少女の姿に投影した、ウニー・ルコント監督。本作はさらにそれを推し進め、大人になり母になった、かつての孤児の視点から、その意味が掘り下げられている。生粋のフランス人の容貌の両親から、アラブ系の容貌を持つ子供が生まれてきたという事実によって、必然的に孤児自身の問題ではなく、夫、子供、家族の問題へとテーマが広げられているのだ。夫とぎくしゃくしているのも、子供と上手く関係が築けないのも、彼女が自分の出自を知らないことと関係しているはずだ。とはいえ、母親が仮に見つかったとしても、そこにはさまざまな感情が流れるであろうことは、容易に想像がつく。自身の出生の秘密、実母とその家族の現在の状況などによって、それが自己否定につながる恐れはないのか。相手方の動揺はどのようなものか、など。それでも人には、それを乗り越え清算しなければならない時があるという、主人公の決心は立派だ。勿論それは同時に、本作を製作した監督の勇気とも重なっているのであり、それ故に本作は感動的である。
富田優子/これまで見たことがない皮膚感覚の表現力度:★★★★★
まるで『冬の小鳥』のあの少女が成長して、実の母親を探す物語なのかと思うほど。ウニー・ルコント監督は前作のテーマを引き継ぎつつも間口を広げて、血の繋がり、そして自分は何者なのかを見つめる作品を生み出した。本作の描写の中心になるのは触れ合い。エリザとアネットは互いのバックグラウンドを知らず、治療者と患者として出会う。アネットは服を脱いでエリザの治療を受けるのだが、二人の肌と肌、肉と肉の触れ合い、そのざわめくような皮膚感覚に訴える描写はこれまでの映画ではお目にかかったことがないような素晴らしさ。ルコント監督の繊細な感性に唸らされた。特に、エリザがアネットの身体を全身で抱えゆっくりと揺らしながら、掌で癒すかのように撫でる姿が胸を打つ。血の繋がりとはかくも業深く、人智を超えた不思議なものであることかと思わずにはいられない。
エリザ役セリーヌ・サレットは抑制の効いた演技と静謐な佇まいで、複雑な心のうちを好演。また舞台が第2次世界大戦の激戦地ダンケルクという、破壊と再生の街であること、また海辺の街という点にも、海=母、という大いなる母性を感じさせ、本作のテーマに説得力を持たせている。
2016年7月30日(土)~岩波ホールほか全国順次公開
©2015 – GLORIA FILMS – PICTANOVO
【フランス映画祭2016】
日程:6月24日(金)〜 27日(月)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:イザベル・ユペール
*フランス映画祭2016は、プログラムの一部が、福岡、京都、大阪でも上映されます。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2016/
Twitter:@UnifranceTokyo
Facebook::https://www.facebook.com/unifrance.tokyo
主催:ユニフランス
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC/TITRA FILM
協賛:ルノー/ラコステ/エールフランス航空
運営:ユニフランス/東京フィルメックス