【フランス映画祭】太陽のめざめ
【作品紹介】
2015年カンヌ国際映画祭で女性監督史上2度目のオープニング作品を飾り、女優賞(『モン・ロワ(原題)』)も獲得したエマニュエル・ベルコ監督最新作。主演にはフランスを代表する女優カトリーヌ・ドヌーヴ。
家庭裁判所の判事のフローランスは、母親に置き去りにされた6歳の少年マロニーを保護する。しかし10年後、16歳となったマロニーは、育児放棄により心に傷を負い、学校にも通えず非行を繰り返していた。マロニーと再会したフローランスは、似た境遇でありながら更生したヤンを教育係に、マロニーが人生をみつけられるように優しく手を差し伸べる。そして、田舎の更生施設に行ったマロニーは、同年代のテスと恋に落ちるが…。(公式サイトより)
【クロスレビュー】
富田優子/大人の根気強さに頭が下がる度:★★★★☆
少年犯罪事件に関して加害者の“更生の機会”ということばを頻繁に耳にするが、本作を見ると更生は難しいことだとつくづく思う。本人の意思が重要とはいえ、彼を立ち直らせようとする周りの大人も相当の根気が求められるからだ。問題ばかりを起こす少年(パラド)に対して、家庭裁判所の判事(ドヌーヴ)や教育係(マジメル)は粘り強くものの道理や分別を説く。正直、ここまでやるのかと思うほどの愚直さだ。ただ、いくら更生したとしても過去はつきまとい、厳しい社会が待ち受けている現実問題もある。就職も希望通りとはいかないだろう。それでも生きていかなくてはならない。すべてがめでたしめでたし・・・という話ではないが、裁判所を出た少年の背後にはためくトリコロールが、彼を激励しているかのよう。“自由・平等・博愛”を掲げる国が見捨てていい人間なんていないのだ。そんなメッセージも感じられ、フランスの寛容性への希望も感じられる。
鈴木こより/カトリーヌ・ドヌーヴ(判事)の「何とかしてくれそう!」度:★★★★☆
「環境が人をつくる」というが、この少年も、ドラッグをやっているシングルマザーの元で育った手の付けられない不良だ。もはや「更生不可能では…」と思いながら、判事を演じるカトリーヌ・ドヌーヴの「何とかしてくれそう」感と、ブノワ・マジメル扮する教育係の「何があっても見棄てない」感に望みをかけて少年を見守る。
ただ見ていくうちに、本作が伝えようとしていることはこれまで見てきた教育更生モノとは少し違うかも、と思いはじめる。少年が家族に見せる素顔は穏やかで、寛大さや思いやりに欠けているとは思えない。彼は他人が自分に下すジャッジに強い不信と絶望を感じているのだ。「攻撃は最大の防御」というが、彼もまた暴力以外に自分を護る術を知らない。裁判所正面のカットで幕を閉じるラストに、子供の更正には忍耐と愛に加え、大人たちの対応をも問う公正なジャッジが必要だという思いが感じられ、唸らされる。
藤澤貞彦/親子間の負の連鎖度:★★★★☆
親子の人間関係は、よく負の連鎖をするという。少年の家庭もまさにそれであった。ちらりと少年の祖父が出てくるのだが、そこから彼の母親もまた、父親の暴力に怯え、愛情に飢えた子どもであったことが想像できる。自分の子供に対して、愛情を与えるより愛情を求めてしまう、そんな母親の元で、情緒不安定だった少年の心は、幼いころ裁判所で母親に置き去りにされたことで、その傷が決定的となる。母親からの存在否定。それゆえに、彼は自分を否定される危険がせまると、攻撃的な行動に走ってしまう。まるで少年は捨てられ傷ついた子犬のようにさえ見える。この作品は、絶望的とも言えるこのような状況でも、辛抱強く大人たちが支えることで、更生への道が開けることを示し、希望を持たせている。幼いころ、大声で泣くことさえ出来ず、ただ一筋の涙を流した少年が、のちに大人の一筋の涙を見て、「ジュ・テーム」という言葉を初めて発するという演出が、彼の立ち直りの第一歩を示していて秀逸だ。なぜなら、自己否定をしている間は、本当の意味で他人を愛することなんて不可能だからである。
2016年8月 シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
© 2015 LES FILMS DU KIOSQUE – FRANCE 2 CINÉMA – WILD BUNCH – RHÔNE ALPES CINÉMA – PICTANOVO
【フランス映画祭2016】
日程:6月24日(金)〜 27日(月)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:イザベル・ユペール
*フランス映画祭2016は、プログラムの一部が、福岡、京都、大阪でも上映されます。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2016/
Twitter:@UnifranceTokyo
Facebook::https://www.facebook.com/unifrance.tokyo
主催:ユニフランス
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC/TITRA FILM
協賛:ルノー/ラコステ/エールフランス航空
運営:ユニフランス/東京フィルメックス