【フランス映画祭】ミモザの島に消えた母

映画と。ライターによるクロスレビューです

【作品紹介】

main_s「ミモザの島」と呼ばれる風光明媚な避暑地で、謎の溺死を遂げた美しい母。それから30年、未だ母への喪失感から抜け出せないアントワンは真相を突き止めようとするが、何故か家族は“母の死”について頑なに口を閉ざす。恋人のアンジェルや妹アガッタの協力を得て、ミモザの島を訪れたアントワンは、自分が知らなかった母のもう一つの顔、そして母の死の背景に渦巻く禁断の真実に辿り着く。

【クロスレビュー】

外山香織/秘されることの残酷度:★★★★★

30年もの間、母クラリスの溺死に疑念を抱いて生きてきた男。父や義理の母とうまくいかず、唯一の味方である妹とも「母の死にこだわりすぎ」とケンカになる始末。自身も妻と離婚し娘ともすれ違い気味だ。家族という輪郭がほころび始めたとき、彼は引き寄せられるように母の死んだ島へ赴く……。正直、この結末は予想を超えてきた。ずっと秘されてきた死の真相すべてが明らかになったとき、結局は皆、大切な人を守ろうとしたがために行動した結果なのだということに気付かされる。しかしながら、それは「守った」ことにはならなかったという皮肉。同時に、何故死んだのかが明らかにされないまま葬られた死者、さらに、彼女の死を知らずに生き続けたある人物の心境を思っても、秘されることとは何と残酷なのかと思う。大切な人の死は誰にとっても重いが、死をタブーとして扱わずに正面から捉えなおすこと、それこそが、死んでいった者への真の追悼であり、残された者が前に進むことにつながるのだろう。原題はBoomerang。亡き人の「自分を忘れないで」という思いが戻ってきたブーメランを彷彿とさせるが、島のある特徴がクラリスの溺死に深く関与していることから(実はこっちも衝撃)、「ミモザの島に消えた母」はなかなかうまい邦題と思う。

鈴木こより/フランス版「家政婦は見た!」度:★★★☆☆

原作タイトルにもなっている”ブーメラン”のように、家族のタブーは人生に付きまとう。真実を隠されていることのストレスや不信感、逆に、知ることで生まれる苦しみや憎しみ。母の事故死からその話題がタブーとされている、残された家族の葛藤が、死の真相とともにじわじわと描き出されていく。真相が舞台となっているノアールムーティエ島の特徴に関係していることやミステリータッチの演出からヒッチコック風といわれることもあるようだが、個人的には、日本が誇る2時間ドラマ「土曜ワイド劇場」や、時代や当時の社会性を反映している結末に松本清張の作品を連想した。真実を隠すことで家族を守ろうとした祖母の想いにも共感できたので悪者扱いされているのが気の毒に思えたが、真実を知った時の妹の反応からみても、フランスでは個人の自由が最も尊重されるのだな、と改めて感じた。

2016年7月23日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開


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【フランス映画祭2016】

日程:6月24日(金)〜 27日(月)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:イザベル・ユペール
*フランス映画祭2016は、プログラムの一部が、福岡、京都、大阪でも上映されます。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2016/
Twitter:@UnifranceTokyo
Facebook::https://www.facebook.com/unifrance.tokyo
主催:ユニフランス
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC/TITRA FILM
協賛:ルノー/ラコステ/エールフランス航空
運営:ユニフランス/東京フィルメックス

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