ブルックリン

“移民国家”“多民族国家”アメリカの懐の深さに、古き良き時代を思う

Brooklyn_main誰もが認める若き天才女優シアーシャ・ローナン。13歳のとき『つぐない』(07)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた後も、『ラブリー・ボーン』(09)、『ハンナ』(11)など順調にキャリアを重ねてきたが、本作『ブルックリン』(15)のヒロイン役では彼女の新たな代表作と呼ぶのに相応しいパフォーマンスを見せている。特に彼女の瞳の演技は白眉。『つぐない』での姉の恋人を無実の罪に陥れる決定的な証言をしてしまったときの微動だにしない眼差しには背筋が凍ったが、本作の彼女は様々な瞳のゆらぎを見せる。故郷か新天地か、明るいイタリア系男か純朴なアイルランド紳士か――。すべてを手に入れられれば良いのに、人生で選択できるのは1つだけ。その決断に至るまでのヒロインの心の揺れは、その美しく澄んだ瞳が繊細に物語る。

時は1950年代。アイルランドの片田舎に住むエイリシュ(シアーシャ)は、将来を案じた姉の勧めでアメリカ・ニューヨークへ旅立つことを決意。母や姉とのつらい別れ、初めての船旅を経てNYに到着。ブルックリンの寮に住み、高級デパートで働き始めるが、新生活や仕事に馴染めずホームシックになる。しかし、同郷の神父(ジム・ブロードベント)の勧めで大学の夜間部で会計の勉強を始め、イタリア系移民のトニー(エモリー・コーエン)と出会って恋に落ち、洗練された都会の女性へと成長していく。そんな充実した日々を過ごすエイリシュの元に故郷から突然の悲報が届き、アイルランドへ帰国する――。

これは人生の岐路に立つ女性の物語だが、女性に限らず男性もエイリシュの姿と自らを重ねる人も多いだろう。特に故郷を離れて都会でひとり生活する人にとっては。窮屈な田舎の生活から解放された自由を味わう一方で、懐かしい人たちへの募る思い、言い知れぬ孤独感。特にエイリシュが姉からの手紙を泣きながら読む場面は郷愁で胸いっぱいになり、こちらも思わずもらい泣き。また彼女はアメリカン・ドリームなどというほどの大それた野心を持ってアメリカにやってきたわけではないことも(イメージとしては歌手や俳優になりたいと上京するというより就職のために故郷を離れる)、一般人である我々の共感を誘うポイントだ。夏休みも間近な今、今年は帰郷したくなる人が続出するかもしれない。

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