【フランス映画祭】『アスファルト』舞台挨拶&レビュー

コンクリートの壁、アスファルトの心

ユペールinアスファルト26月25日、TOHOシネマズ日劇スクリーン3にて、映画上映前、本作の主演女優イザベル・ユペールが舞台あいさつをした。映画祭3度目の登壇となるこの回は、シックなグリーンの葉っぱと白い花があしらわれたシャツに黒いパンツという装い。片手をポケットに入れてスクッと立つ姿が、凛々しくカッコいい。満員の観客席を見渡したイザベル・ユペールは、ひと言「映画が終わった後も、同じ人数が残っていることを願っています」と、まさかの言葉を発し、観客の笑いを誘った。映画上映前ゆえ、楽しみを奪うことになりかねないのでと、前置きした後、この作品が3つの小さなお話から出来ている映画であること、自分と絡んだ若い俳優が、監督の息子さんで、まだ新人であることなどの説明をした。最後にユペールはこの作品の特徴を「どのようなところに住んでいる人たちでも、あるいは多様な人たちが観ても、気に行ってもらえるものだと思います。今日の現実を描いてはいますが、その中には、ポエティックなものがあり、感受性豊かなものがあります。私はこの作品が大好きです。実に感動的で楽しく面白い作品です」と述べ、大きな拍手を受け、舞台を後にした。

作品レビュー

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© 2015 La Camera Deluxe – Maje Productions – Single Man Productions – Jack Stern Productions – Emotions Films UK – Movie Pictures – Film Factory

フランス、郊外の古い団地が舞台。でも色々と社会問題になっているパリ郊外の低所得者向け団地ではない。もちろん、昼間から何もすることなく座ってばかりいる若者も出てくるし、団地の壁には落書きがしてあるし、住民たちも裕福そうには見えない。近くに幹線道路があるのだが、その外に取り残された人たちの物語であるには違いない。それにしてもこのタイトル、コンクリート剥き出しの建物だから単にアスファルトとは、誠に素っ気なく冷たい感じがする。それでも意外に暗さ、冷たさ、ジメジメ感が、本作には無い。むしろこの映画は何かが“ヘン”である。時代背景もよくわからない。部屋には80年代の映画ポスターが貼ってあるかと思えば、宇宙飛行士はなぜかアポロ計画時代の帰還船で団地に着陸する。この作品は、やはり何かが微妙に“ズレ”ている。

調子の悪いエレベーターを取り換えるか否かの住人の話し合いのなか、ひとりだけ反対する中年男に対してどうすべきかを、他の住人たちが、彼をひとり広い部屋に残して狭いベッドルームに話し合いにいく、その奇妙さを想像してみてほしい。映像には敢えて出してはいないのだが、いくら広いベッドルームだって、20人を超える人たちがそこに入れば、まるで『マルクス兄弟オペラは踊る』の船室状態(満員電車で網棚まで人が乗る状態)になっていたはずだ。やはり何かが“ヘン”である。

調子の悪いエレベーターは、昇りたくても昇れなかったり、閉じ込められたり、扉が閉まらなくなったりと、ままならない。それはまるで人生模様の一コマのようである。サミュエル・ベンシェトリ監督が語っているとおり、これは人が落ちてくる物語。栄光の座から落ちた女優ジャンヌ・メイヤー(イザベル・ユペール)、宇宙から間違って団地に落ちてきてしまった宇宙飛行士(マイケル・ピット)、エレベーターの新調にひとり反対し、その言動によって自分自身をどん底に落としてしまった冴えない中年男。それぞれに出逢いがあり彼らに転機が訪れるのだが、その相手もまた孤独である。過去の栄光しかない女優には、未来がまだ何もわからない寂しい鍵っ子ティーンエージャー。NASAから見捨てられかけた“アメリカ人”宇宙飛行士には、息子が刑務所暮らしでひとり寂しく暮らす“アルジェリア出身”のマダム・ハミダ。冴えない中年男には、アンニュイな美人夜勤看護師(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)という具合に。これも普通に考えれば、そこにコンクリートの壁が立ちはだかるくらいの相容れなさ、“ズレ”がある。それがお互いを助ける仲となるのは、それぞれが、相手の中に自分を見つけるからである。

ところで、タイトルの『アスファルト』は、住宅の素材ということであれば、本当はコンクリート(béton)とすべき。耐久性のあるコンクリートに較べて固まるのも溶けるのも早く、耐久性がないアスファルトをタイトルにしたところに、実はこの作品の捻りがある。コンクリートの壁に阻まれて、それぞれが孤独に過ごす集合住宅。だからといって、コンクリートの壁を強引に壊したところで、人々の“ズレ”は埋まらない。そうではなくて、アスファルトを溶かすように壁を徐々に無くしていく。そうすれば、人は繋がれるのではないか。3つのエピソードには、そんなスピリットがある。観終わって人に優しくなれるような作品だ。

P.S.(20代前半、ピチピチのイザベル・ユペールの姿が拝めるのもお楽しみのひとつです)

※2016年9月 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

【フランス映画祭2016】

ユペールinアスファルト

日程:6月24日(金)〜 27日(月)
場所:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長:イザベル・ユペール
*フランス映画祭2016は、プログラムの一部が、福岡、京都、大阪でも上映されます。
公式サイト:http://unifrance.jp/festival/2016/
Twitter:@UnifranceTokyo
Facebook::https://www.facebook.com/unifrance.tokyo
主催:ユニフランス
共催:朝日新聞社
助成: 在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC/TITRA FILM
協賛:ルノー/ラコステ/エールフランス航空
運営:ユニフランス/東京フィルメックス

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